高校生のための理系英語
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2017/10/30
- 一時代を画した米国の建築家フランク・ゲーリー
2007年にはじめて米国のマサチューセッツ工科大学 (Massachusetts Institute of Technology、略称 MIT) を訪れた筆者はキャンパスのど真ん中に立つ奇怪なビルディングに度肝を抜かれました。これまで見たこともないような造形、色彩、素材の建物。折れ曲がった四角柱に円柱や円錐などが縦横無尽に付け加えられており、それらはある部分は鏡のようなスチール、ある部分はアルミやレンガでできており、見る角度によってまったく異なる形状を見せてくれます。未完成のようにも壊れそうになっているようにも見えます。これが Ray and Maria Stata Center でした。2004年に、建築界のノーベル賞と呼ばれるプリッカー賞(the Pritzker Architecture Prize)を受賞した建築家フランク・ゲーリー (Frank Gehry) によってデザインされ建てられました。 一階はカフェテリアになっていて多くの学生が授業の合間にランチやスナックを取ったりコンピュータを開いて宿題をしたりしています。MITの建物群は広いキャンパスに複雑に並んで建てられており、通常は番号で呼ばれ、教室もN14-260などのような呼ばれ方をしますが、この建築物だけは32という番号があるにもかかわらず “the Stata” と誰にでも呼ばれ親しまれています。Stataの中にはそこここにMITハックの名残のパトカーや牛が置かれてあったり、チャイルドケアがあったり、地元の野菜や果物などが販売されたり、他の建物へ行く人が通ったりと常に人の行き来が絶えません。 デザインの奇抜さのために水漏れやカビ、下水の逆流や雪や瓦礫で非常口がふさがれるなどの問題があるのは事実で訴訟も起きていますが、私は毎年MITを訪れるたびにStataを見ると、この建物が象徴するMITの発想の自由さを感じてうれしい気分になります。 Ray and Maria Stata Center, Massachusetts Institute of Technology in Cambridge (2004) [写真提供:ゲッティ] Walt Disney Concert Hall in Los Angeles(2003) [写真提供:ゲッティ] 一度目にしたら忘れられないような強烈な印象を持つこれらの建築物はいずれもフランク・ゲーリーによってデザインされました。 1)これらは従来の建築素材である鉄筋コンクリートやガラスではなく、アルミやトタン、レンガ、木片といったどこにでもありそうな素材を使って建築されています。 また垂直線や平行線は気にせず自由な曲線からなっているのも特徴的です。ゲーリーの作品群は2010年の世界建築物調査で最も重要な作品群とされ、「われわれの時代の最重要建築家」と評価されました。 フランク・ゲーリーがこのような素材を用いてデザインを行なうようになったのには彼の幼少時の体験が大きく影響しています。彼の祖父は金物店(工具店)を営んでおり、そこにある材料を使って祖母と一緒に絵を描いたり物を作ったりするのが好きだったのです。両親は彼にしっかりとした工学を身につけて欲しいと思い大学の工学部に進ませましたが、彼はあまり興味を持てませんでした。そこで 2)彼は自分自身に問いかけました。「僕は何が好きだったのか」「何をしていると楽しかったのか」と。 そして祖母と過ごした日々を思い出した彼は本当に好きなのはアートだと気づき、その後大学で建築の道に進んだのです。 最初に建築したのは妻アニタの実家の近くに住んでいた知人用に建てたThe David Cabin (1957) です。 3)これはその後の作品と同様な特徴を見せ、日本(奈良)の正倉院などアジアの影響を色濃く受けたユニークなデザインのものでした。 彼はさまざまな作品を生み出しましたが、サンタモニカの生家を買い戻し、オリジナルな細部はそのまま見えるように残してメタリックな外観が元の家を包む彼の生家が最も評判をよびました。 Gehry’s Residence in Santa Monica, California (1978) [写真提供:ゲッティ] 彼は今もそこに住んでいます。 それからの活躍を列挙するとすばらしいものです。 *Cabrillo Marine Aquarium (1981) in San Pedro *The California Aerospace Museum (1984) at the California Museum of Science and Industry in Los Angeles *Chiat/Day Building (1991) in Venice *Frederick Weisman Museum of Art (1993) in Minneapolis *Cinematheque Francais in Paris *Dancing House (1996) in Prague The Geggenheim Museum Bilbao (1997) in Bilbao, Spain [写真提供:ゲッティ] 4)1997年にスペイン・ビルバオにグッゲンハイム美術館 (the Geggenheim Museum Bilbao) がオープンしたとき、米国の著名な建築家フィリップ・ジョンソンは「われらの時代の最もすばらしい建築物」だと褒め称えました。 グッゲンハイム美術館のもたらした影響は大きく、その後、次々と大きな建築物をまかされます。 *Walt Disney Concert Hall (2003) in Los Angeles *The open-air Jay Pritzker Pavillion (2004) in Chicago *New World Center (2011) in Miami Beach *The Stata Center (2004) at MIT *The Peter B. Lewis Library (2008) at Princeton University *The Beekman Tower at 8 Spruce Street (2011) in New York City また、シドニー、アブダビ、トロント、ロンドンなどからも要請が来るようになりました。 彼の作品は未完成、あるいは粗末とさえ言われますが、1960年、1970年代のカリフォルニア・ファンクアートの流れを引いています。土など高価でない材料を使い、伝統的でない方法を用いてまじめなアートを作り上げたのです。一方で、彼の作品は周囲の景観になじまない、また土地の気候を無視して作られているなどの批判もあります。 現在も活躍中の88歳になるフランク・ゲーリー。彼の評価は将来、どのように変化していくかは分かりません。ただ20世紀から21世紀初頭にかけて一時代を画したことは確かで、同時代に生きた建築家として今後も語り継がれることは間違いありません。 コラム記事の下線部分の英訳例 1)These are not made with conventional building materials such as reinforced concrete or glass but with ordinary materials such as aluminum plate, corrugated iron, bricks, or wood. 2)He asked to himself, “What did I like?” or “What excited me?” 3)It incorporates features that became synonymous with his later works, including strong Asian design influences like those from the Shosoin Repository in Nara, Japan. 4)When the Guggenheim Museum Bilbao, Spain, opened to the public in 1997, Philip Johnson, a renowned American architect, hailed it as “the greatest building of our time.”
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2017/08/25
- 普及が加速する自動運転車
皆さんは自動運転車 (autonomous cars) という言葉を聞いたことがあるでしょうか。まだ運転免許 (driver’s license) を持っていない高校生の皆さんにはあまり関心がないかもしれませんが、16歳以上の人口の約74%を占める運転免許保持者の間では自動運転車は大きな話題となっています。 近年、高齢者によるアクセル (accelerator) とブレーキ (brake pedal) の踏み間違えや高速道路 (expressway) の逆走 (driving into oncoming traffic) による事故のニュースが増え、判断能力の衰えた高齢者の運転についての不安が高まっています。運転手自身も負傷したり亡くなったりする可能性がありますが、普通に道を歩いている人が巻き込まれる可能性も高いのです。警察庁が示すグラフによると近年、高齢者の自動車乗車中の事故死が目立っていることがわかります。 ※警察庁「平成26年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況」より こういった事故による不安を解決するためのひとつの方法として自動運転車の普及が加速しています。 1)自動運転車とは大きく3段階に分かれます。 1. 車が障害物に出会ったときに自動的にブレーキがかかる。 2. 走行時に速度を調節してくれる。 3. 自動的にハンドルを切ってくれる。 この3つが可能になれば、極端に言えば人間が車を運転する必要はなくなるのです。第一段階に限っていえば2016年に販売されている車の50%に自動ブレーキ装置 (automatic emergency braking system) が付いています。 グーグル(Google)では2015年夏にハンドルもアクセルペダルもブレーキペダルもない自動運転車を公道で走行させる予定でしたが、カリフォルニア州から手動 (manual driving system) でも運転できる形での走行を求められたため変更を余儀なくされました。 Googleが開発した自動運転車Waymo 車は一台だけうまく制御されていても道路には他の車も走っています。同方向に走っている他の車との車間距離 (distance with other cars) 、左右の関係、追い越し追い抜き(overtake)なども問題になりますが、逆方向(opposite direction)から来る車との衝突回避、道の譲り合い、あるいは横から飛び出してくる他の車や人間、その他の動くもの(自転車、バイク、三輪車、乳母車、スケート)や動物をいかに感知して衝突を避けるかというのも大きな課題になります。 2)自動運転車が事故を起こした場合、運転席にいる者に責任があるのか、車メーカーに責任があるのかなど、自動運転車が公道に導入された場合は新たな法の整備も必要になってきますし、社会的なコンセンサスも必要になります。 しかし自動運転車の最大の販売者であるテスラモータース (Tesla Motors)によれば2023年には完全自動化された車が公道を走るようになり、そのうち人間が運転する車が法で規制される時代がくるだろうとさえ言われています。 未来の自動車の形の可能性としてもうひとつ挙げられるのが電気自動車 (electric vehicle) です。 3)ガソリンの内燃機関による自動車はガソリンを燃やす際に排出するCO₂やNO₂が大気汚染や騒音などの環境問題を引き起こしてきました。 電気自動車は電池 (batteries)あるいは充電(charging)で走る場合が多く、ガソリンの燃焼によらないためCO₂やNO₂を排出しない、エンジン音が静か、エネルギー効率 (energy efficiency) が高いため費用が安くつくなどの長所があります。このように言うと良いことづくしのようですが、ガソリンが数分ですぐに補給 (replenish) できるのと異なり燃料電池 (fuel cell) の充電には時間がかかる、充電所がまだガソリンスタンドほど整備されていないという欠点があります。このため深夜余剰電力 (surplus power in the midnight) や太陽電池 (solar power) を併用するなどの方法が考えられています。電気自動車はこれからますます普及していくことでしょう。 電気自動車はコンピュータ制御(controlled by computers)の自動運転と相性がよく、今後ますます双方が発達していくのは間違いありません。 コラム記事の下線部分の英訳例 1)Autonomous driving can be generally divided into three controls: 1. automatic braking when a car encounters an obstacle; 2. automatic speed adjustment; and 3. automatic steering. If these three devices control the car, a human driver is no longer needed. 2)If autonomous cars are to be allowed on public roads, we need to clarify the laws to address matters such as who is responsible when a self-driving car is involved in an accident: Is it the person in the “driver’s” seat or the car manufacturer? There also needs to be a social consensus about their use. 3)Gasoline-powered internal-combustion engines are responsible for environmental issues, such as noise and air pollution, because they emit carbon dioxide and nitrogen oxide.
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