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- 世界に二つとないユニークな東京都英語村(TOKYO GLOBAL GATEWAY)学校教育との連携や相乗効果に配慮:東京都教育委員会
- 森 晶子(もり あきこ) 東京都教育庁 指導部 国際教育事業担当課長 [プロフィール] 2001年東京都入庁後、政策企画局、株式会社日本政策投資銀行、財務局などを経て2016年度より現職。TOKYO GLOBAL GATEWAYの開設、海外教育行政機関との提携、国際交流事業等を担当。ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。 2018年度からの新学習指導要領の段階的実施や大学入試への外部英語資格・検定試験の導入など、英語教育をとりまく環境が大きく変化しています。そんななか、東京都では、2018年に策定された「東京グローバル人材育成計画 ’20」において、「英語力」「豊かな国際感覚の醸成」「日本人としての自覚と誇り」の三つの柱にもとづく20の施策が盛り込まれました。その施策の一つ「英語での実践的な発話を体験」の実践場として2018年秋に東京都英語村がはじまりました。スタートして約半年、英語村がどのように利用され、実績や学校の授業と連携しているのか。またそこに課題はないのかなどについて、東京都教育庁指導部国際教育事業担当課長の森晶子氏に話を聞きました。 Q.「英語で学ぶ」体験型英語学習施設として、東京都英語村(Tokyo Global Gateway、以下TGG)が2018年9月にオープンしました。TGGにどのような役割を期待されているのかお聞かせください。 A. 子供たちが学校で習った英語を実践的に話す機会が十分ないため、英語を学ぶ意欲や必要性を感じきれていないのではないかという課題認識がありました。 TGGを活用することで、子どもたちがさまざまな活動を通じて、自分の英語が通じたとか、おもしろいと感じる成功体験をしてほしいと思います。必ずしも成功体験だけではないかもしれません。自分ではもっと話せると思っていたのに、いざ外国人を相手にすると思うように言えなかったというような、悔しい思いをするかもしれません。このような感覚を通じて、子供たちの学びに向かう力を刺激し、英語の学習意欲を高めるのが、TGGの最も大きな効果だと思います。 Q. TGGならではの特色とはなんでしょう。 A. 1点目は、リアルなグローバル空間を創出している点です。施設というハード面では、7,000㎡という広大な場所に、海外の日常シーンのほか、27種類に上る多様な非日常空間が創られています。ソフト面では、TGGには30数カ国から約250人に上る外国人スタッフが登録しており、平均70~100人程度が常時、施設内で活躍しています。 2点目は、多岐にわたるレベル別プログラムです。プログラムは「アトラクション・エリア」と「アクティブイマージョン・エリア」の2系統に分かれ、アトラクション・エリアではレストランや病院、飛行機の機内など、日常生活シーンに基づき、「ミッションカード」を使って会話に挑戦します。アクティブイマージョン・エリアでは、他教科や世界に目を向けるきっかけとなるようなテーマ、例えばプログラミングや日本文化、ダンス、ビジネス、SDGs(持続可能な開発目標)、海外の授業などに英語で挑戦することができます。プログラムの内容、素材、人材には、様々な提携先からの協力を得ています。例えば、東京都教育委員会とオーストラリアのクイーンズランド州教育省との教育に関する覚書に基づく連携関係を背景に、クイーンズランド州の現職の教員がTGGに滞在し、自国での授業を提供してくれるなど、日本では初めての取り組みもあります。 3点目は、学校教育との連携や相乗効果に配慮していることです。他の体験型英語学習施設とは異なり、教育行政が関与している施設ならではの特長だと思います。プログラムを作るにあたっては、立教大学の松本茂先生や上智大学の和泉伸一先生などに監修していただいていますが、学校の授業ではなかなか実現できない部分や、まだ十分に実現できていない部分に配慮して作っています。新しい学習指導要領でも求められている、「具体的な課題等を設定し、コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、これらを論理的に表現する」活動などに配慮しています。学校の授業でも、ロールプレイングなど、色々な工夫をされていると思いますが、リアルなセッティングで、外国人と、即興で、予定調和でない会話を行うこと、自分の要求を伝えて理解してもらわなければならないなど、ホンモノの状況で子供たちが英語を使うことの必然性、必要性を創出することは、学校では十分に実現できないことだと思います。 また、タスクベースの指導、生徒中心の活動、CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)などに関心はあっても、実際にどのようにするのが良いか、模索しながら授業改善に取り組んでいらっしゃる先生も多いと思います。TGGでは、専門家や教育教材の実務者、学校現場、行政など、様々な属性の関係者が協議しながら、時間をかけて、このような要素を盛り込んだプログラムを用意しています。学校の授業にも参考にしていただけると思います。 Q. 東京都英語村の学校団体による利用の現状についてお聞かせください。 A. 小学生、中学生、高校生、いずれにも広く活用されています。利用の位置付けや狙いも、各校で工夫して利用されています。この辺りについては、2019年1月15日にTGGで開催した実践事例発表会で、発表校から色々な報告がありました。その中で紹介があった学校を例に挙げますと、都立六郷工科高等学校は、専門教育に強い学校ですが、ものづくりの専門性を生かして、アジアでグローバル・リーダーシップを取れる人材の育成を目指しています。同校では3年かけてのTGGの利用プランを検討しています。1年生の段階では、外国人と相対することに恐怖感や抵抗感がなく自己紹介ができるところから目標を設定し、最終的には生徒たちが専門分野でリードしていけるような英語力をつけていくために、3カ年の全体のプランニングをしています。1年に1回ずつ、在学中に合計3回TGGを利用して学習します。毎年度の目標の位置づけを明確にし、事前と事後のフォローアップもカリキュラムに取り入れることで、TGGを軸にした英語教育、人材育成に取り組まれています。 都立町田高等学校は多様な国際理解教育に力を入れている学校です。希望者に海外の姉妹校での語学研修を実施していますが、その事前学習としてTGGを利用されています。海外での実践に向けた練習としてTGGを活用することで、海外研修をより充実させる取り組みです。 このほか、TGGでは、特別支援学級の子供たちも、楽しく英語のコミュニケーションを体験しています。様々な子供たちに利用してもらいたいと思います。 Q. 東京都教育委員会ではTGGを授業の一環として利用できるように配慮しているとお聞きしました。具体的にはどのような位置づけになるのでしょうか。 A. 教育課程の中で活用する場合、大きく、英語の授業、総合的な学習の時間、学校行事(特別活動)のいずれかでカウントすることになろうかと思います。学校が、英語の授業として使えるよう、エージェントが個々の児童・生徒の活動状況をフィードバックすることにしています。また、教科横断的で課題解決型のシナリオにすることで、総合的な学習の時間にも使えるようにしています。更に、グループ活動を中心とし、スチューデント・アグリーメントという行動規範を設けることで、特別活動の考え方にも沿うようにしています。 TGGの特徴はガイドラインにまとめ、学校に配布しています。教育課程外で、希望者を募って利用するなども可能です。実際にTGGをどういう位置づけで利用するのかは、各学校の判断です。 Q. TGGの活動をそれぞれの学校ではどうつなげればよいでしょうか。 A. TGGの利用効果を高めるには、学校での取り組みが重要だと考えていますが、具体的に、どのような学校の授業とTGGとの接続方法が良いのかということについては、各校の実態に応じ、多様なやり方があると思います。学校が、自校に合ったやり方を考えられるように、様々な事例を提供することが重要です。先にお話したTGGの実践事例発表会は、そうした情報共有のための取り組みの一つです。参加した多くの学校が、具体的な他校の取り組み例を知ることは自校の参考になると回答しています。今後、こうした情報共有を広げていきたいと考えています。 Q. 教員にとってもTGGで学べる効果は期待できるのでしょうか? A. 引率の先生方には、学校でTGGで子どもたちがどう活動しているか、TGGのエージェントのファシリテートの仕方やプログラムの構成などを見てもらい、その後の授業の参考にしてもらえればと思っています。 TGGのサービスは、子供たちにとって有意義なインパクトのある場というだけでなく、事後学習や学校における英語教育の改善に役立つと思います。先生達が、TGGで子供たちが活動する様子を横で見ていて、「ああ、これは自分の授業にも取り入れられるな」「自分だったらこうするな」と、次々とアイデアが沸き起こる施設にしたいです。 Q. 最後に、TGGに今後期待するものはなんでしょうか。 A. TGGは、日本における英語教育改革のハブになってほしいと思います。プログラムの内容は随時バージョンアップし、エージェントやスペシャリストたちも日々改善を重ねています。様々な協力機関からの提案も寄せられています。全国から、利用者や視察によって、多くの人々が集まっています。 常に新しい取り組みや議論が生まれ、新陳代謝を続ける、子供たちも、先生方も、いつ行っても新しい発見、新しい学びがある施設にしたいと思います。 そうして、TGGで提供するサービスが最終的に何を目指しているかというと、子供たちに不確実性の高い新しい時代を、より自由に、幸せに生き抜いていける、小さなきっかけを提供することです。子供たちには、「英語が苦手だから」「外国人と触れ合うのが苦手だから」という理由で、自分の可能性を狭めてほしくない。英語が使えれば、世界に自在にアクセスでき、人生の選択肢が増えるのだ、可能性が広がるのだということに気付いてほしい。世界では、英語がビジネスの共通言語になっていますし、コミュニケーション能力や伝え方の巧拙によって、同じ内容を言う場合でも、受け手の反応等、結果が大きく異なります。英語に慣れ親しむ場、コミュニケーション能力を鍛える環境を提供することで、子供たちの、充実した人生に向けた一助になればと願っています。 今は、利用する子供たちの笑顔が溢れ、子供たちにも先生たちにも満足度が高く、全国から関心を寄せて頂ける施設として滑り出すことができました。益々多くの子供たちに利用してもらいたいです。 全国の学校に利用して頂けるので、修学旅行などで是非活用して頂きたいです。 (2019年4月掲載)
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- 小学校中学校の新学習指導要領が公示―小学3年生から英語教育が始まると何が変わるのか
- 平木 裕(ひらき ひろし) 文部科学省視学官 [プロフィール] 文部科学省初等中等教育局視学官。広島県公立高校教諭、指導主事を経て、国立教育政策研究所教育課程調査官、文部科学省初等中等教育局教科調査官。平成29年より現職。 文部科学省は2017年3月31日に新学習指導要領を公示した。小学校英語の教科化などが盛り込まれており、注目を集めている。小学校は2020年度、中学校は21年度から実施される新学習指導要領について、この数年間、改訂に取り組んでこられた平木視学官に英語教育という観点から、今回の学習指導要領の改訂の意義について語っていただいた。(文責 編集部) 新指導要領は外国語教育に追い風 Q. 新学習指導要領は、外国語教育にはどんな意義を与えることになるでしょうか。 A. 新学習指導要領では、外国語に限らず、「何ができるようになるか」ということがそれぞれの教科で明確に出されました。現行の「基礎基本の知識・技能と、思考力・判断力・表現力のバランスを取ろう」というのは維持しながらも、どういう資質・能力を具体的に求めていくかということが、かなり議論されています。結果として三つの柱、すなわち、知識・技能(何を知っているか、何ができるか)、思考力・判断力・表現力等(知っていること・できることをどう使うか)、学びに向かう力・人間性等(どのように社会・世界と関わりよりよい人生を送るか)が明確に設定され、それぞれを各教科等で具体的に議論するところから改訂の作業が始まったと言ってよいと思います。 外国語の場合、何ができるようになるかについては、CAN-DOリストの形で、学習到達目標を各中・高等学校で設定する取り組みを進め、今年度で5年目になりました。中学校、高等学校ともにかなりの割合で設定が進み、昨年度段階で中学校では約7割、高等学校だと約8割が設定しています。英語を使ってどんなことができる生徒にしていくのかというのは、もうここ数年ずっと言ってきたことで、その同じスタンスで今回は改訂がなされたという意味において、外国語にとっての追い風になっているというのが端的な印象です。 Q. ただ、CAN-DOリストについていえば、作ったリストの運用がなかなかできていないという意見もありますがどうでしょうか。 A. 中学校では7割強の学校で設定は完了していますが、それを活用して指導と評価の改善を図っている学校となると、そのうちの半数に満たなくなってしまう。全体で言うと3割ぐらいの学校でしか活用ができてないかもしれません。作っただけになっている。CAN-DOリストが全く見えないような単元計画だったり、現在完了形とか、受け身など文法事項の定着を目指すことが先にきたりしている。だから英語によるコミュニケーションを目指しているはずでも、それが本当のコミュニケーションといえる授業となっているかどうか。まだ今でも「練習」のレベルにとどまってないかなというのが実態です。 Q. CAN-DOで達成目標を設定するということと、例えば英検で何級をとるとか、CEFRのどのレベルまでに子どもたちのレベルを上げるという目標とはどうしても裏腹な関係になります。ところがなかなかレベルが相対的に上がってこないという結果報告もあります。ここはどう見たらいいんでしょう。 A. 例えば英検だったら、ある中学校は3級程度と言っている。これはあくまでも一つの例です。決してすべての中学生に「英検3級」を取らせてくださいとは、言っていません。結局CAN-DOの話に戻るんです。つまり3年間で学習指導要領に示された言語材料をうまく使って、示された言語活動をきちんと行って、学校がそれに照らして設定した「こういうことができる」という目標を目指して3年間指導する。最終的にそれができるようになったのなら、その生徒は例えば英検だったら3級程度はクリアしているっていう、そういう判断です。だから3級を受けるっていうことが第一義ではなくて、CAN-DOできちんと生徒につけるべき力を学校が設定し、生徒と共有し、普段の指導で力をつけていって、しかるべき機会に評価をきちんとする。生徒の力をきちんと把握していくっていうことです。それが3年生の最後の段階で、みんなクリアできたよねって言ったら100%英検3級程度の力がついていますっていうことになるのです。 小学校での英語導入で変わる英語教育 Q. これから小学校3年から英語がはじまります。日本の英語教育は変わると期待してよろしいんでしょうか。 A. 今の教育課程ではあくまでも外国語活動です。したがって、英語に対する好きという気持ちを高め、中学校に行って、英語の力をつけたいと思う子どもたちを育てることが第一の目標です。今度はそこからちょっと踏み込んで、3、4年生で態度面を中心にした指導をしたうえで、5、6年では、教科として扱う。教科として扱うということは、ある程度のスキルを身につけることを求めています。特に聞く、話すについては、当然現行とは異なってきます。 Q. ここを失敗すると先がないので、慎重にとどうしても思ってしまいますが。 A. 期待とともに、教科となったら、どこまでやるんだという不安を抱える先生もいらっしゃると思います。われわれのイメージとしては、子どもたちにとっての英語とのかかわりが、4年生から5年生で、つまり教科になった途端に、がらっと変わるわけじゃないと思っています。子どもたちが英語に接するっていうことに関しては、3年生も4年生も5年生も6年生も中1も同じようなスタンスでいてほしい。だから教科といっても、現在の中学校と小学校外国語活動の間に挟まるようなかたちでの教科になるわけです。中学校の一部を切り取ってくるわけじゃない。5、6年生ならではの発達の段階に合った、これまでになかったかたちの教科です。 中学校の課題は、小中連携 Q. 小学校がそうやって変わってくる。そうなると、視学官が担当されてきた中学校の課題ということを少し伺えますか。5年生、6年生で英語が好きになりました。でも中学校に行ったら嫌いになりましたというケースもあるようで、中学校としての課題を、先生はどうご覧になっていますでしょうか。 A. 小学校での学びをどう引き継ぐかがポイントになります。小学校6年と中1で言えば、外国語という教科でのつながりです。いわゆる英語慣れしているとか、活動するのに抵抗がないとか、ALTが部屋にいても特に違和感がないとか、成果はいっぱいありますが、特にスキルとして何かを身に付けてきているわけではないと思います。 今度は学習指導要領で、はっきり5、6年生の指導について言っていますから、中学校の先生は、それをきちんと引き継いで、スタートラインを決めなければいけない。今以上に小中の連携が必要になります。中学校に入ったら急に授業のスタイルが違って、座ったまま英語の授業を日本語で聞くというようなことになってしまうと、小学校で大きな改訂をした意味がなくなってしまいます。 Q. 小中連携では今までもいろんな取り組みをしてきました。それをさらに加速するために具体的にどんなことを、お考えでしょうか。 A. 中学校区の単位が一つのポイントになると思います。校区の小・中学校の先生方が、いかに普段からつながりを持って仲よくなっておくかということでしょう。それは必ずしもいつも対面でなければということではありません。同じ校区でも何キロも離れていたり、校区に5、6校の小学校があったりする場合もあります。そんな時は、ICTをうまく利用してお互いの情報交換ができるよう、常にパイプをつないでおくっていう、少なくともそこはしておいてほしい。小学校ではどういう指導をやっていて、どんな教材を使い、子どもたちはどんな様子なのか、できれば映像も提供してあげるとか。もちろん授業を見に行くっていうのが一番いいんですけれども。 今回の学習指導要領改訂のポイントの一つが、小中高を通じて育成するべき力ということで、目標の一貫性ということがあります。今回の改訂では、小学校3年生の外国語活動から、中学校の外国語科まで領域ごとの目標を一覧で示しました。 話すことを「やり取り」と「発表」に分けて、5つの領域で、こういう系統表を作って、小学校の外国語活動から教科、中学校の教科へと流れが見えるようにしています。小学校5、6年の先生が中学校の授業を連携で見に行くと、自分のやっている言語活動との関連、中学校ではどんなふうな活動になるのかっていうことが見えるんです。中学校の先生が小学校に行くと、これは小学校でどういうふうにやっているのかがわかる。そのあたりでうまく接点が今度は作れるんじゃないか。だからこそ先ほどのCAN-DOリストの形での学習到達目標っていうのが、今以上に今度は効いてくると思います。 中学の先生がたに伝えたい2つのポイント Q. 小学校の5万人ぐらいの教員と、中学校は2万人の英語の先生とが一つのくくりになるようなイメージですね。そのほかに、中学校の先生にお伝えしたいことは何かありますでしょうか。 A. 小学校では、「文法事項」という言い方はしませんが、文構造なんかも扱うし、表現としてはto不定詞とか、動名詞とかも出てきます。それらも含め、文法事項として学ぶわけではありませんが、過去形も入れることにしました。小学生は体験的にこういう表現を使ってきている。それを中学校では自分で考えてそれが使えるようにしていくというところが接点です。だから小学校で扱った語彙とかルールを何回もスパイラルに中学校では繰り返し使っていく。それが一点。もう一つは、高校への接続です。今回授業は英語で行うことを基本とするという規定を高校同様に中学にも入れましたけど、その意味を、きちんと中学校の先生は理解しないといけないっていうことです。 Q. 具体的にはどういうことになりますか。 A. 要は授業のスタイルを変える必要があるという意味です。単純に授業は全て英語で行うべきだ、というのが趣旨ではなく、生徒が英語を使った言語活動を行うことが中心の授業に改善していくっていうメッセージです。きちんと生徒とのやり取りができる英語力を培ってほしい。生徒たちが活動するときにサポートができる英語力、そして指導力が必要になりますね。 Q. この数年でもその方向は出ていたし取り組まれている先生も多かったと思うので、中学校の英語の先生にとって新しい取り組みとはならないのではありませんか。 A. ただ、まだ誤解が多くて、国の調査で教員の英語使用の状況はパーセンテージが出ていますよね。中学校の場合は、昨年度の調査で言うと、1年2年3年ともに60%ちょっとの先生が半分以上英語でやっています。ただ半分以上英語でやっていればいいのかというと、実はそうでもない。最近拝見した中3の授業では、先生は英語を使っているが、子どもたちは英語で全くコミュニケーションしていなくて、ただ練習に終始している。 Q. いよいよ変化の波が中学校にも、きたということですね。 A. そうです。どうしても中学の場合は、今の学習指導要領では「コミュニケーション能力の基礎」という言い方もしているし、すべての言語材料が初出になります。そういう意味では一から学ぶことになっていることは確かなんですが、小学校の授業スタイルをリセットしてしまっているようなケースが多いのは残念です。 文法指導は変わるのか Q. 例えば文法の指導についても、新学習指導要領では少しふれられていますが、こういうかたちで教えてほしいっていうようなものは、何かありますでしょうか。 A. 文法に限らず、言語活動を行うときに、必要な言語材料を活用するっていうスタンスです。言語材料は教え込むためにあるのではなく、言語活動を行うために必要な言語材料をうまく生かして、それを使ってコミュニケーションする。それによって、言語材料の理解が進むという、サイクル的なイメージが今回もはっきりと出ています。「往還的」という言葉をよく使うんですけども、思考・判断と知識・技能が行ったり来たりするイメージが強いんです。 Q. あくまで言語活動主体で、この中で自然に言語材料を学んでいってほしいっていうことですね。 A. 今回踏み込んだ書き方をしたところがあります。その一つが、「指導計画の作成と内容の取り扱い」です。そこに「実際に英語を使用して、互いの考えや気持ちを伝え合うなどの言語活動を行う際は」という部分があります。つまり、言語活動っていうのは実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うというのをまずは前提にし、必要があれば理解したり練習したりするための指導を行うことというスタンスに変えたのです。 Q. 革命的な変化だ。そうすると小学校で過去形が出てくるというお話をされていましたけれど、それはたぶん会話の中で過去形は、たくさん出てくる・・・ A. そう、場面の中で出てきます。たとえば、「今日、学校へ行きます」っていうときのgo to schoolのgoと、I went to school yesterday.のwentが、goを昨日だったらwentになるんだっていう教え方をするわけではない。あくまでも昨日っていう場面設定において話す中で、I went to school.と言う。 Q. 中学では、後づけでgoの過去形がwentだと教える。 A. そうです。その理解を伴って、汎用性のある過去形の使い方ができるようにしていく。動名詞も、want toのto不定詞もそうです。あくまでも一つの表現として扱うっていう位置づけです。 大学入試は変わるのか Q. 高校については、外国語の場合は前回の改訂で大幅な改訂がありましたが今回はどうでしょうか。 A. 現在、まだ改訂作業中ですので、はっきりとしたことは言えません。現行の学習指導要領においては、「コミュニケーション英語」という総合的な英語を扱うものと、「英語表現」っていうプロダクティブな面を重視するのと大きくは二つです。その方向性は大きく変えることなく科目名を変更し、より効果的に二つの科目が機能するように差別化を図るとともに、高校卒業段階での英語力の高度化も目指したいと考えています。 Q. 編集部そうすると高大接続というか、大学受験に関心が移りますが、四技能試験の導入で民間の業者試験がかなり浸透してきました。この流れを視学官は、どうお思いになりますか。 A. やはり学習指導要領で求めていることと大学入試で見ていることに、大きなずれがあるのは望ましくないことなので、学習指導要領で求めていることをきちんと大学側も見てほしい。大学入試センター試験ではリスニングとリーディングの面をきちんと測ることができているという大きな成果はありますが、いかにしてスピーキングとライティングを見ていくかっていうことですよね。当面は、センター試験を生かしながら、特に話す、書くのところが見られる外部の資格検定試験を生かす。ゆくゆくは国できちんとそういった面も見られるようなものを開発して、全国一律で見られるようなものができると本当はいいのですが。 Q. 信頼性の高いテストで、なおかつ廉価で提供できる試験ですね。 A. 全国どこの地域でも同じような条件で、ということが求められていると思います。 ― そうですね。いろいろありがとうございました。 (2017年8月掲載)
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- 図書館を活用した多読多聴で英語の読解能力を伸ばす
- 鬼丸 晴美(おにまる はるみ) 明星中学校・高等学校 教諭 明星中学校・明星高等学校には、まるでハリー・ポッターの世界に入り込んだと思うような図書館に約3万冊の英語の蔵書があります。同校ではこの蔵書を活用し、中学1年から3年までは総合科目で、高校1年では英語科と連携することで英語の読解能力を飛躍的に伸ばしています。図書館のコンセプトから選書、英語科との授業連携までを担当し、多読多聴学習を主導する鬼丸晴美先生にお話を伺いました。幼・小・中高(英語)教員免許を持ち、司書教諭の資格を有する鬼丸先生は、日本多読学会や日本学校図書館学会の理事にも就任されています。 Q. 多読・多聴は昔からある英語学習法です、なぜ今の子どもたちに取り入れようと思われたのでしょうか。 A. 私が多読をはじめたのは図書館司書教諭として生徒たちと接する中で、「みにくいアヒルの子」とか「長靴をはいたネコ」のような世界中の誰もが知っている名作を知らない子がいっぱいいるということに気づいたからでした。そうした子どもたちは日本人であれば知っているような童話や昔話にも触れていないということです。高校生に日本語で「三匹のこぶた」や「桃太郎」の本を進めるわけにはいきませんが、英語で書かれた同タイトルのものなら読んでもらえると思ったのです。もっといろんなことを知って、世界の常識・知識・教養に繋げてもらえたらと思いました。それには英語圏で母語である英語を学び始めるころに読む英語の本が役に立ちます。また、英語の本には子ども向けノンフィクションが非常にたくさんあります。読んで論理的な表現に気づいたり身につけたりするのはもちろんのこと、世界中の子どもたちがノンフィクションで様々なことを学んでいることも同時に知ってほしい。アメリカの小学生の教科書に「meltdown」と題するものがあり、チェルノブイリ原子力発電所事故、スリーマイル島原発事故とともに、福島の原発事故の話が載っています。この事実をどのように考えますか。すでに海外では教材として使い、起きた事故の事実と教訓、これからどのようにエネルギー問題を考えるかなどを学んでいる。これからのグローバル化社会で日本の生徒が知らなくていいはずがありません。本はいろんなこんなことを教えてくれます。教科書で学んだら、一歩踏み出し様々な本と言語に触れてほしいと思います。これからお話しする多読多聴は、始めるのに遅いことはなく、誰にでもできるメソッドでもあるのです。 Q. 多読・多聴授業を何から始めたらいいのかお聞かせください。 A. まず学年に関わらず幼児向けの本からスタートします。絵本を選ぶ方もいますが、その国の文化を知っていないと理解するのが意外と難しく、挿絵や図版だけでもある程度の理解ができてしまいます。ネイティブの子供たちが母語を学習するのに使う幼児向けのものが、多読導入では適していると思います。その際は、音声教材がついているものを選んでください。 私の授業ではアメリカの大手教科書会社Scholastic社のSight Word Readersのシリーズを使います。Sight Wordとは、音を聞いただけでも、字を見ただけでもイメージができる、正しく綴れる、読める、字を見て発音ができる、といったように自由に使える単語のことを言い、アメリカでは小学校入学前に200語程度習得していることを求められているそうです。たとえば、seeというと「見る」という意味だけが浮かびます。しかし、seeには幅広い意味をカバーすることができ、「確認」という意味まである。Oxford Reading Treeの「SEE」などを見るとよくわかります。ネイティブが日常使っているseeという単語の意味の広がりを学ぶことを4技能の核にもってきています。 Q. 具体的にどのように授業を進めていくのでしょうか。 A. 音声をシャワーのように浴びることが大事です。言語野に英語音声をinputし、直ちにoutputするシャドーイングについて最初に詳しく教えます。たくさん聞かせて、耳から入ってきたものを即座にたくさん口にだす。「無理だ」「難しい」という気持ちを抱かせないというのがポイントになります。英語多聴で注意したいのは、「聞き滑り」です。流れてくる音を聞いてはいますが頭に入っていない、何か音が聞こえているだけといった状態のことです。一つの動作・活動(聞く)だけだと15分間であきてしまいます。集中力を持続するためにも、感覚的なものをフル活用させたい。文字を指でなぞって触れて、目で文字を見て、耳で音声を聴いて口に出す。この一連の動きをすることで、聞くから聴くに生徒自身が変化していることに気づきます。できる自分に出会っていることになります。この一連の活動を根気よくしていくことでディクテーションにも非常にスムーズに移行できます。 一斉に音読すると元気いっぱいで大騒ぎになったり、声に出すことが恥ずかしかったり、苦手だったりする生徒もいますので、手作りスピーカーホンを使っています。塩ビ雨どいを6~7㎝に切って黒電話の受話器の形にしたもので、軽くて丈夫で、使った後はアルコールで消毒するので衛生的でもあります。 シャドーイングをはじめたころは、聴こえた音だけなのでブツブツとコマ切れ状態ですが、机間巡視をしながら声にできていることをしっかりとほめてあげます。特にスピーカーホンがいい点は小さな声でも耳に届くので、CD音声のように綺麗に発音できた自分の声をキャッチして認識することができることです。 たくさんの英語の音声を聴くことでネイティブの子どもたちの母語の習得と同じことをしているのです。この速さに耳が慣れていくと、聴きとる力がついていきます。 聴き取る力を支えているのが集中力なので、シャドーイングを繰り返していくうちに英語の音そのものに慣れてきます。ディクテーションは、口を使うシャドーイングが手を使って書くという活動に移行しているだけなのです。中学一年生でも生徒たち自身が驚くほど、実は書き取れるものなのです。 Q. 多読・多聴学習には、ディクテーションも大事ですが、どのように指導されているのでしょうか。 A. シャドーイングがかなりできるようになったら、いよいよディクテーションに進みます。どのようにするのか詳しく説明をします。 Scholastic社のSight Word Readersなどで30ワード未満のものから始めます。慣れると簡単な話は楽しみながら書き取ることができます。小さな達成感を感じていくことが、大切だと思っています。 1、CDをかけて本文を見ずに英語を聴き、直ちに書き取る。 このときはまちがえてもいい、ローマ字でもいいから書くことに集中するように指導します。(LとR、CとK、CとSはよく間違えます。) 2、書けなかった単語にはアンダーラインを記す 音は聴こえているけれど、速さに慣れなくて書きとれない場合は考え込むことなく書きとれなかった単語が存在したというしるしとしてアンダーラインだけを記します。 3、書いた後は、すぐに自分で丸付けをさせる。 まちがえていたら正しい単語を必ず書いていく。ピリオドを忘れてもダメです。丸つけが終わった後に、閉じてもう一回させると8割から9割が書けるようになっています。 ディクテーションを通して、ピリオドの存在に気づき、「!」マークは音声から読み取るといったことにも気づきます。パターンの勉強でもあるので、日本だとhorseを教えるときにhorseしか教えません。しかしネイティブの使う本だと必ずaがついている。appleだとanがついている。こうした学び方すると冠詞が抜けませんし、単語を増やし文法も自然に身に付いていきます。 「無理、無理、日本人だから」と言っていた生徒が自分の出来映えに一番驚いています。 生徒の中には多読やシャドーイングよりもディクテーションにはまる子もいます。そうした子は物語のディクテーションへと先に進めていくこともできます。 Q. 本を選ぶのに単語数が書いてありますが、単語はどのように増やしていくのでしょうか。またレベルは、赤いものが読めるようになると次へとステップアップしていけばいいのでしょうか。 A. あらかじめ、同じ程度の本やシリーズはリーディングシートを作ります。チェックするマスを4つ位作っておくと生徒たちはマスの分だけ読んでくれます。単語数の少ないものは簡単に読み終えることができるので、授業中にたくさんの本が読めたことになります。小さな達成感です。単語数の多い本に向かってどんどん歩を進めるのではなく、じっくりと簡単に書かれているものをたくさん読む(シャドーイングやディクテーションをする)ことで英語への体力をつけることが肝要だと思います。 わからない単語を書く、調べることも指導しています。ただ、とにかく一気に読みたい生徒もいるので強制はしていません。タイトルなど読む前に知らない単語があれば辞書で読む前に調べるように促します。その際、学齢にあった辞書を使い、必ず調べた単語の項目は最後まで読ませることをします。 多読を進める中でbe動詞と一般動詞はある程度押さえておかないと多読の面白みが半減してしまうので、『中学英単語 α(アルファ) 最初の555語』(著 宮下いづみ、 古川昭夫 アスク出版)を使い語彙を増やすためにも単語チェックはします。文章も読んでいるだけでは「読み滑り」があるからです。音読させて詰まる音というのはわからない単語です。そこを単語チェックで生徒自身がわかるようにする。(丸付けは各自でします)予告せずに単語チェックを行いますが、時期を置いて同じチェックをすると単語が書けるようになっている。言語は繰り返しすることが大事なのです。ただ、あくまでも総合科目としてのチェックなので、100点を目指すのではなくて集中して読み続ける力が単語チェックを通じて自分についてきたことがわかればいいのです。何題中の幾つできた!とか前回よりもたくさん書けたというように自分の成長がわかる活動が多読、多聴には多いと思います。 中学三年間でどのレベルまで生徒たちを進めていくかというのは年度の生徒たちの様子に左右されることはありますが、各出版社の英語学習者のためのGraded Readerのstarter, easy reader, beginner(あるいはそれ以上)までは進めていきたいと考えています。どこの出版社も最初のシリーズは動詞が現在形で構成されています。中学一年生の2学期末には読めることになります。一冊読めたから次にLEVEL2に進むと総単語数も増えるので焦りは禁物です。ステップはあまり上げないで、いったりきたりを繰り返します。本当はレベルなど関係なく、生徒が読みたいと思うものを読めばいいと思っています。ただ、指導する目安として900ワードの本を読んだ後に1200ワードにレベルを上げると生徒はつらいです。だから700ワードくらいのもので、楽に読めるものを勧めます。私は、中学三年生でGraded Readerの3レベル(Headwords1200語、準2級程度、CEFR-A2)を読めることを目標としたいと考えています。 Q. 中学3年間の総合科目としての授業と高校1年生の英語科授業の連携についてお聞かせ下さい。 A. 中学3年間の総合科目としての授業は、一斉授業ではありません。「ハリー・ポッター」を読んでいる生徒もいれば、ディクテーションをしている生徒もいる。得意な生徒はどんどん伸びていきますので先に進めます。逆に苦手な生徒は個別で対応します。そうすることで中間層は得意な生徒たちに引っ張られてボトムアップしていくので、教える側としては苦手な生徒たちに目を向けられるのです。本を読むことが苦手な生徒の横には座りこんで、一緒に読んだり、質問をしたりしています。うっとうしがられていますが(笑) 英語を得意とするクラスの生徒たちには、40分間で4800ワードの本を音読できます。未知の単語も3~5語程度で平均60%から80%まで理解ができたと生徒たちは実感しています。苦手なクラスでは、20分間ほど音読あるいはシャドーイングで本を読ませてから、20分間程度 ipadを使って、e-booksの動画を見て楽しみ英語を嫌いにならないようにしています。 高校の英語科との連携は、レベルを英語の先生と相談しながら決めていきます。中学から多読をしている生徒も3分の1はいます。Foundation Reading Library、 Building Blocks Libraryなどを使いGraded Readerへの導入基礎を造ります。いずれも1レベル6冊で構成されています。約500語で書かれているものが6冊ですから積算単語は約3000語です。1時間の音読授業でほとんどの生徒が6冊読み終わります。6章仕立ての1冊が読めたと換算することができますね。米粒よりも小さい字で書かれたGraded Readerへの抵抗感を心理的に下げることができます。 Graded Readerの文法・テスト相関表などは各出版社のHPにありますので、Graded Readerの読み方指導のところで確認をさせると効果的です。しかし、準2級の英検を受けるからといきなりレベル3のGraded Readerを読もうとすると活字の小ささ、ページ数の多さでくじけてしまいます。1分間で自分がどのくらいの単語数を読めるのかを知るトレーニングといってもよいと思います。500語ぐらいが楽に読めていける読書の体力をしっかりとつけていきたいですね。また、各出版社のHPにはレベルチェックのできるサイト(無料)もありますので、ipadのある学年では必ず一度は利用しています。 Graded Readerを読めるようになると、文法の強化と再確認が多読との接点だと生徒たちがようやく気づきます。 Q. 多読の効果をはかるにはどうしたらいいでしょうか。 A. 英検を積極的に受けるように言っています。まずは、小さな文字でびっしり書かれた英文を読む心理的なハードルが下がっていることに生徒自身が気づくと思います。多読・多聴授業を受けている生徒は、長文問題で点数をとります。 そして短期間(1学期)に10万語読んだ生徒は英検3級がとれます。1分で100語として1日15分英語を読むと1カ月に5万語弱になります。約2カ月で10万語になります。3級から準2級への壁はノンフィクションをどのくらい読み進めることができるかで合否の差が出ます。CEFR-B2を目指してCEFR-A2から大量にFootprint Reading LibraryやOxford Read and Discoverを積極的に読み込みます。音声もあるのでリスニングも一緒に鍛えることができます。冬休みを利用して、Oxford Read and Discoverの6レベル60冊を完読して英検2級を取得して中学生もいました。 中学1年生で毎月10万語を読んだ生徒が第三回の英検を受けて2級にわずか1点足りなかっただけでした。英検でみると多読の効果がよくわかると思います。 Q. こうした多読多聴の授業を豊富な洋書をもっていない学校で行うには、どうしたらいいでしょうか。 A. たくさんの本を買うのは大変です。e-bookであれば、1年間に一人あたり1000円で250冊読み放題で、本国で冊数が増えるとオートマティックに冊数が増えるメリットもあります。お勧めは、アメリカの小学校3年生までの副教材として使われているScholastic社の「BookFlix」、3年生から5年生が対象の「TrueFlix」です。カテゴリーにわけられていて、読んでいる単語にマーカーがつくのでわかりやすいです。 予算をかけずに、ということであれば、子供向けストーリーの無料音声配信サイト「Storynory」。作品は著作権が切れたものですが、すべてテキストで読めることと、音読されているので、学習に適しています。プレゼンテーション動画配信サイトの「TED」にもいい話がたくさんあります。 英検の過去問も多読多聴に使えます。英検のサイトには5級から1級まで、それぞれ過去3回分の試験問題(リスニング原稿とその音源も)がホームページにアップされています。特に長文読解の内容がとてもいいです。読み応えのある内容で充実しています。多読の好きな生徒の中には受験後に読解が面白かったと内容を話してくれる生徒が数多くいます。単語数も約300語から500語強まで英検級によりバラエティに富んでいます。利用するのであれば、問題として使うよりも読み物として愉しく読ませることをお勧めします。 (文責:編集部 高岡幸佳) <参考> Scholarstic社 https://www.scholastic.com/digital/index.html Storynory https://www.storynory.com/ TED https://www.ted.com/ 英検の過去問 https://www.eiken.or.jp/eiken/exam/ Collins Big Cat https://collins.co.uk/pages/collins-big-cat Oxford社のサイト https://elt.oup.com/ センゲージラーニング株式会社ELT http://cengagejapan.com/elt/ マクミラン http://www.macmillaneducationasia.com/ ピアソン https://www.pearson.co.jp (2017年1月掲載)
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- グローバル化に対応した今後の英語教育改革-小・中・高における英語教育改善の方向性-
- 向後 秀明 (こうご ひであき) 国立教育政策研究所教育課程研究センター研究開発部教育課程調査官 (文部科学省初等中等局教育課程課教科調査官、国際教育課外国語教育推進室教科調査官を併任) [プロフィール] 千葉県の公立高等学校の教諭、指導主事を経て平成22年より現職。 平成25年12月、文部科学省は「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」(以降、「実施計画」)を発表した。これは、初等中等教育段階からグローバル化に対応した教育環境づくりを進めるため、小・中・高等学校を通じた英語教育全体の抜本的充実を図ることを目的とした計画である。さらに、「実施計画」を具体化するために、平成26年2月から9月にかけて「英語教育の在り方に関する有識者会議」(以降、「有識者会議」)が9回開催され、その審議のまとめとして、「今後の英語教育の改善・充実方策について~グローバル化に対応した英語教育改革の5つの提言~」(以降,「5つの提言」)がまとめられた。 では、具体的にどの部分で、どのような改革が必要となってくるのだろうか。「5つの提言」において示された内容(「改革1」から「改革5」)のうち主要な事項を中心に、今後の英語教育改善の在り方を考えていきたい。 1 国が示す教育目標・内容の改善(「改革1」抜粋) 〇学習指導要領では、小・中・高等学校を通して ① 各学校段階の学びを円滑に接続させる ②「英語を使って何ができるようになるか」という観点から一貫した教育目標 (4技能に係る具体的な指標の形式の目標を含む)を示す。 〇高等学校卒業時に、生涯にわたり4技能を積極的に使えるようになる英語力を身に付けることを目指す。 「小・中連携」や「中・高連携」の大切さが叫ばれる一方、実際には英語教育における学校間の接続が十分であるとは言えない。異校種でどのような指導や評価が行われているのかについて、ほとんど知らないという教員さえいる。現行学習指導要領においても「コミュニケーション能力」の育成という共通の柱はあるが、進学後にそれまでの学習内容を発展的に生かすことができるよう、小・中・高等学校を通じてより一貫した方向で英語教育が行われる必要がある。 これまでの学習指導要領においても、「外国語」の目標及び科目ごとの目標、内容等が示されているが、次期改訂では、技能ごとに具体的な指標の形式で目標を入れることが検討されていくであろう。このことに伴い、各技能について、児童生徒がそれまでどのような目標に基づいた指導を受けてきているかを十分に把握し、特に中学校第1学年及び高等学校第1学年では、例えば、経験したことのあるタスクのレベルを上げて再度行うなど、前年度までの学習を生かした学びが可能となるように留意する必要があろう。 「改革1」では、小学校中学年での外国語活動、高学年での教科化についても提言されている。これまでの実践や成果を踏まえた小学校中学年への外国語活動の導入は、児童の英語学習に対する動機付けや音声面での向上が期待されよう。また、抽象的な思考力が高まる小学校高学年で教科として外国語教育を行うことは、聞いたり話したりすることに加え、積極的に英語を読もうとしたり書こうとしたりする態度の育成につながるものと思われる。ただし、早期に英語嫌いを作ってしまうような事態とならないよう、中学校での学習内容を単に前倒しするのではなく、児童の発達段階に応じた指導をできるかどうかが大きなポイントになるであろう。なお、小学校における外国語教育の授業時数や位置付けなどは、今後、教育課程全体の中で専門的に検討されることになる。 2 学校における指導と評価の改善(「改革2」抜粋) 〇生徒が英語に触れる機会を充実し、中学校の学びを高等学校へ円滑につなげる観点から、中学校においても、生徒の理解の程度に応じて、授業は英語で行うことを基本とする。 〇各学校は、学習指導要領を踏まえながら、4技能を通じて「英語を使って何ができるようになるか」という観点から、学習到達目標(例:CAN-DO形式)を設定し、指導・評価方法を改善する。 「改革2」では、中・高等学校では、主体的に「話す」「書く」などを通じて互いの考えや気持ちを英語で伝え合う言語活動を展開することが重要であり、高等学校に加え、中学校でも「授業は英語で行うことを基本とする」ことが適当であるとしている。文部科学省が平成25年度に行った調査によると、中学校で、「発話をおおむね英語で行っている」又は「発話の半分以上を英語で行っている」教員の割合は、第1学年で44.5%、第2学年で42.9%、第3学年で41.2%となっている。この数値を上げていくこと自体は、それほど高いハードルではないであろう。ちなみに、高等学校における同割合は、平成22年度の「英語Ⅰ」では15.6%だったが、平成25年度の「コミュニケーション英語Ⅰ」で53.1%と大きく増加している。 ただし、ここで気をつけるべきは、授業を英語で行うこと自体が目的ではなく、それは、コミュニケーション能力を育成するための手段だということである。コミュニケーション能力を育成するためには、生徒が理解の程度に応じた英語にできるだけたくさん触れるとともに、生徒自身が実際に英語を使う場面を豊富に設定しなければならない。教師だけが英語を用いて話し続けるような授業にならないよう、十分な注意が必要である。 授業での使用言語と同様、或いは、それ以上に大切なのは、明確な学習到達目標に基づく指導と評価が行われることである。中・高等学校では、教科書の言語材料に関する知識がどれだけ身に付いたかという観点で授業が行われ、教科書に出ている順番ですべてを“こなす”必要があると考えている教員が少なくない。今日の授業が年間の指導の中でどの位置付けにあるのか、今日の授業によって生徒が何をできるようになることを目指すのかがはっきりとしていなくてはならない。そのためには、学習指導要領に基づいたCAN-DOリスト形式の学習到達目標を設定することが重要になる。 3 高等学校・大学の英語力の評価及び入学者選抜の改善(「改革3」抜粋) 〇入学者選抜における英語力の測定は、4技能のコミュニケーション能力が適切に評価されることが必要。 〇入学者選抜に、4技能の測定する資格・検定試験の更なる活用を促進。 そのため、学校、資格・テスト理論等の専門家・試験関係団体等からなる協議会を設置し、適切な資格・検定試験の情報提供、指針づくり、試験間の検証、英語問題の調査・分析・情報提供等の取組を早急に進めることが必要。 指導と評価の一体化は、学校内に限ったことではない。コミュニケーション能力を育成するための授業を受けてきた生徒に対する入学者選抜は、コミュニケーション能力を測定するものでなければならない。キーワードは、「4技能の測定」である。 現在、大学入学者選抜において、4技能を測定する試験はほとんど行われていない。大学自体で4技能の測定が難しいのであれば、すでに国内外で広く認められている資格・検定試験の活用を考えるべきであろう。「改革3」では、資格・検定試験を活用するための情報提供や指針づくり等を進めるため、大学、高等学校及び中学校の学校関係団体、テスト理論等の専門家、資格・検定試験の関係団体等からなる協議会の設置を提唱している。今後、この協議会において、各試験の評価の妥当性、多様な生徒の能力への適合性、各試験間の妥当な換算方法、受験のしやすさ、試験の実施体制等について議論がなされていくことになると思われる。 入学者選抜については、資格・検定試験による代替に議論がフォーカスされがちだが、同時に、現在行われている入学者選抜における英語の問題についても調査・分析をし、改善を進めていくことが急務であると思われる。例えば、現在の入学者選抜においてほとんどの割合を占める「読むこと」の能力を測定する問題についても、学習指導要領の趣旨に沿った出題になっているか、出題意図が明確で妥当性があるか、といった点について検証していくことが重要である。 4 教科書・教材の充実(「改革4」抜粋) 〇小学校高学年で教科化する場合、学習効果の高いICT活用も含め必要な教材等を開発・検証・活用。 〇主たる教材である教科書を通じて、説明・発表・討論等の言語活動により、思考力・判断力・表現力等が一層育成されるよう、次期学習指導要領改訂においてそのような趣旨を徹底するとともに、教科用図書検定基準の見直しに取り組む。 〇国において音声や映像を含めた「デジタル教科書・教材」の導入に向けて検討を進める。 中・高等学校については、現在使用されている教科書は、文法事項を中心とした言語材料の定着を図るための活動が中心になっているものが多い。中・高等学校の英語担当教員の多くは、教科書を使って言語活動を展開するために、“教科書の再教材化”を行っており、そのためのワークシート作成などに非常に多くの時間を費やさざるを得ない状況にある。教科書が、各単元で示された話題や内容について、言語材料を活用しながら、説明・発表・討論などの言語活動を行うことを通して思考力、判断力、表現力等が育成されるような構成になっていれば、教員の負担も軽くなるはずである。その意味において、「改革4」で「教科用図書検定基準の見直しに取り組む」と踏み込んだ提言をした意義は大きいであろう。 ICTの活用については、例えば、テレビ会議システムを利用した海外の学校との交流において、発表や意見交換を行うなどの先進的な取組が見られるようになった。一方、ICTの活用以前に、その環境整備が整っていないという学校も多い。まずは、ハード面の整備が急務であろう。 5 学校における指導体制の充実(「改革5」抜粋) 〇小各学校では、校長のリーダーシップの下で、英語教育の学校全体の取組方針を明確にし、中核教員等を中心とした指導体制の強化に取り組むことが重要。 〇小学校の中学年では、主に学級担任がALT等とのティーム・ティーチングも活用しながら指導し、高学年では、学級担任が英語の指導力に関する専門性を高めて指導する、併せて、専科指導を行う教員を活用することにより、専門性を一層重視した指導体制を構築。小学校教員が自信を持って専科指導に当たることが可能となるよう、「免許法認定講習」開設支援等による中学校英語免許状取得を促進。 〇大学の教員養成におけるカリキュラムの開発・改善が必要。同時に、小学校の専科指導や中・高等学校の言語活動の高度化に対応した現職教員の研修を確実に実施。 小学校高学年で英語が教科化になった場合、誰が指導するかが大きなポイントの一つになることは言うまでもない。上記の体制の実現に向けて、文部科学省では、平成26年度から、「外部専門機関と連携した英語指導力向上事業」において、地域の中心となる「英語教育推進リーダー」の養成を開始している。 現職教員に対する研修と併せ、今後の英語教育改革に対応できる人材を育成・確保する視点から、教職課程の見直しも重要な課題である。小学校における英語指導に必要な基本的な英語音声学や英語指導法、中・高等学校における第二言語習得理論を含めた英語学や4技能の総合的なコミュニケーション能力を指導・評価するための科目などを充実していく必要があるだろう。大学の教職担当者は、求められる英語教員の育成に向けて、今まで以上に重責を担うことになる。そのため、小・中・高等学校、さらには教育委員会と密接にタイアップし、各学校種におけるこれまでの成果や課題を確実に把握した上で教員養成に当たることが大切である。 (この原稿は、一般財団法人英語教育協議会が発行している英語教育専門雑誌「英語展望」122号(2014年12月発刊)から抜粋したものです) (2015年6月掲載)
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- 英語で行う高校英語の指導の在り方と授業づくり(3)
- リーディング理論に基づく効果的な指導を考える 寺内 正典(てらうち まさのり) 法政大学教授 平成25年度から年次進行で実施されている高等学校新学習指導要領において、「英語の授業を原則として英語でおこなう」こととなっている。今年のELEC夏期英語教育研修会の最終日の8月16日には、「英語を教える」から「英語で教える」授業へ転換することの意義と方法について理論と実践という観点からの研修がなされた。 午前は、吉住香織氏(國學院大學非常勤講師)が「生徒のやる気を引き出す高校英語指導の視点と仕掛け」と題した講座を、午後には法政大学教授の寺内正典氏が「リーディング理論に基づく効果的な指導を考える」というテーマの講座を担当した。最新の言語学や外国語としての英語教授法に裏打ちされた授業のあり方について、現職英語教員らが知見を得る機会となった。 第二言語習得理論に基づく効果的な読解指導とは 夏期研修の最後に登壇したのが法政大学の寺内正典教授。第二言語習得研究、第二言語処理研究に基づく読解指導研究に多年に渡って取り組んでいる寺内氏。今年の研修テーマは、「リーディング理論に基づく効果的な指導」で、「英語の授業は英語で」という新しい環境にあって、読解(リーディング)指導をどのように変えていけばよいのか、理論と実践とのインターフェイスを重視したアプローチからの講座となった。 冒頭、寺内氏は興味ある調査結果を提示。それは、同教授が所属するELEC同友会英語教育学会の会員である中学校、高等学校、大学などの教員を対象とした「読解指導に関する実態調査」(2013年6月実施)。10年前に実施した同様の調査結果と比較することで、読解指導の量的変化、質的変化を分析したもの。この10年間で英語教育はコミュニケーション重視へと大きく方向転換したが、今回の調査結果では、中学から大学のどのレベルにおいても、読解指導において「文構造の解説」に力点を置く、と答えた教員が増加していること。とくに中学校では激増している。また、生徒が読解につまづいた場合の指導として、中学校と高校では「難解な語彙の理解」よりも「文構造に着目し、構文をとらえさせる指導を重視する」と答えた教員が圧倒的多数であった。 一見、コミュニケーション重視と逆行するような結果だが、「文構造をきちんと習得させないと、英語でのコミュニケーション活動がうまくいかない、と現場の英語教師が考えていると理解すべき」と寺内氏。つまり、内容を正確に読み取らせ、読み取った問題に関して、教師の誘導的発問により生徒に深く考えさせながら、自分の意見を発言させ、議論させることを重視する。このような指導を通じて発話内容も議論の内容の質も高まっていくので、読解指導を我が国の英語教育の基盤に置きながら、英語による確かなコミュニケーシュン能力を高めていくべき、という寺内氏の主張にもつながる。 この主張は「文法訳読法」の意義を見直せ、ということではなく、リーディング指導の改善のため、文構造を意識的に理解させることを授業に組み込むこと。また、英語でリーディング指導をすることを大前提としながらも、学習者の熟達度に応じてパラグラフ間の論旨を日本語で要約させることや、英語の要約文を作成させる過程で日本語でまとめ発表させることも、内容理解やパラグラフ構成・展開を確認・深化させるという観点から必要である、と寺内氏。 それでは、英語教師の授業改善のために、「言語機能に基づく授業談話分析」の手法を授業活動の現場で、どのように生かせばよいのだろうか。 寺内氏は、授業分析の手順として、 1) ビデオやICレコーダーによる授業の記録 2) 教師と生徒の発話を文字に書き下ろす 3) 各々の発話を言語機能の下位カテゴリーごとに分類した授業談話分析 4) 教師の発話の問題点摘出と改善点の考察、 という一貫作業を推奨する。 教師と生徒の発話が原則として英語であるため、教師発問(質問)の言語機能としては、例えば、テキスト内容を正確に理解していれば答えられる発問、生徒が推論したり内容を統合すると答えられる発問などに分類すること。また、生徒の応答については、質問を正しく理解できているかどうか、語彙や文法的な誤りを含んだ応答になっていないかどうか、内容理解の誤りを含んでいないかどうか、などをチェックする必要がある。 そのうえで、質問を繰り返したり、ヒントを与えたり、発言を再確認することで、生徒を正しい答えに導くためのフィードバック、そして生徒の発言を評価(Good job!など)したり、補足説明や修正・改善を促すための教師の発話など、それぞれの場面における教師発問を言語機能別に分析し、授業改善を図ることが肝要である、と寺内氏。 さらに、「指導案・指導展開例を、教材の持ち味や生徒の熟達度やニーズに応じて立案・作成できる力」こそ、英語教師にとって本当に必要な能力でもある、と寺内氏は指摘している。 (文責:編集部) (2014年9月掲載)
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- 英語で行う高校英語の指導の在り方と授業づくり(2)
- ~生徒のやる気を引き出す高校英語指導の視点と仕掛け~ 吉住 香織(よしずみ かおり) 國學院大學非常勤講師 平成25年度から年次進行で実施されている高等学校新学習指導要領において、「英語の授業を原則として英語でおこなう」こととなっている。今年のELEC夏期英語教育研修会の最終日の8月16日には、「英語を教える」から「英語で教える」授業へ転換することの意義と方法について理論と実践という観点からの研修がなされた。 午前は、吉住香織氏(國學院大學非常勤講師)が「生徒のやる気を引き出す高校英語指導の視点と仕掛け」と題した講座を、午後には法政大学教授の寺内正典氏が「リーディング理論に基づく効果的な指導を考える」というテーマの講座を担当した。最新の言語学や外国語としての英語教授法に裏打ちされた授業のあり方について、現職英語教員らが知見を得る機会となった。 生徒と英語の出会いの場を演出するために 吉住氏は長年公立高校で教鞭をとられていたが、2年前に退職。英国のInstitute of Education(ロンドン大学教育学専門大学院)の英語教授法の修士コースで学び、帰国後は大学に活動の拠点を移したばかり。今回の講座では、英国留学で得た最新の知見も紹介しながら、生徒の学習意欲につながる高校の英語授業指導について具体的な提案をされている。 吉住氏が重視するのは、英語習得に効果的と言われる第二言語習得の認知プロセスを実際の英語授業指導にどのように活かしていくか、という点である。具体的には、input → intake → outputという言語習得プロセスにおいて、 1) やりとりを通して生徒の「関わり」や「気づき」を引き出すinput を十分かつ効果的に与えること、 2) 場面と文脈を意識したmeaningfulな口頭練習や言語活動を十分行ってintakeさせること、 3) 沢山の時間はとれなくても、足場掛けや支援をしながら何らかの形で学んだ事柄をoutput できる機会を設けてその必要性を意識させること、 がポイントとなる。 授業設計では、授業だからこそできる活動を絞り込み(例:音読や協同の重視)、「指導の狙いと活動間のつながり」を意識して段階的に指導手順を考えることが重要として、その際の主な留意点に 1) 到達目標を意識した各段階の活動のつながり 2) 4技能をいつ、どのような活動に取り入れるか、技能統合と焦点化 3) 音、意味、場面、文字の提示の手順、 などをあげている。 また吉住氏は、「教材から指導目標を考える」必要性を指摘する。「教科書の内容を様々な視点から分析し、理解し、メッセージや特徴を掴む」こと、「教材を教師、生徒、筆者、教員個人の4者の視点で読みなおし、そのうえで生徒の実態を踏まえて到達目標を設定する必要があります」と同氏。教科書「を」から教科書「で」、そして教科書「を越えて」、という観点から、最終的には教材を通して生徒に何を教え、何を伝えるかが大切である、と強調した。 さらに、教師が授業の様々な場面で学習者に話しかけるteacher talk もまた、学習者の英語習得を促す上で大きな役割を果たす、という。teacher talkは生徒の言語熟達度に応じて教師が話す英語であり、指示や説明、発問、フィードバックなどさまざまな機能をもつと同時に、生徒にとって「重要なinputである」、と同氏。だからこそ英語教師は、teacher talkを適切に調整し、その質を向上させる必要がある。具体的な調整の方法として、頻出語彙や既習事項、単文を利用した言い換えや単純化、必要な語句を補う精緻化(elaboration)など言語的な修正に加え、意味交渉を含むやりとりの中での繰り返しや強調、ビジュアル・エイズやジェスチャーの利用といった会話的な工夫も紹介された。 このように、教師が授業時に行うさまざまな指導行為に、学問的な意義づけや意味づけがなされ、その内容を工夫しながら質を上げていくことで学習者のやる気や言語習得につながれば、教師がおのれの活動に自信や確信を抱く、という効果も期待されるであろう。 講座の最後に吉住氏は、「日本人の英語教師(JTE)がnon-native speaker(NNS) だからこそできることは何か」と受講者に問いかけた。日本人が犯しやすい誤りの予測や日本語との相違点をふまえた指導、生徒への励ましなど、NNSだからできる事は色々あるが、中でも英語のlearnerかつuserとして生徒の「ロールモデルになること」の意義を吉住氏は強調する。 「先生が英語を使う姿を示し、また学習者として苦労した体験も話してほしい。生徒の身になって英語学習経験を考えられる利点を活かした指導こそ、JTEに求められている役割ではないでしょうか」と同氏。最後に、コミュニケ-ション力の向上をめざし生徒と英語の出会いの場を提供する役割を担うJTEだからこそ、自らがまず英語を使おうとすることが必要である、と吉住氏は結んだ。 (文責:編集部) (2014年9月掲載)
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- 英語で行う高校英語の指導の在り方と授業づくり(1)
- 英語で教える英文法 ~典型的場面で導入し、活動により使い方を体験させよう~ 卯城 祐司(うしろ ゆうじ) 筑波大学教授 平成25年度より施行された新学習指導要領において、高等学校では「授業は英語で行うことを基本とする」こととされ、2013年12月に文部科学省より発表された「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」では将来的に中学校でも「授業は英語で行うことを基本とする」とされている。ELECは、夏期に3週間実施している『ELEC夏期英語教育研修会』(2014年7月28日~8月16日)の中で「どのように英語で授業を行えばよいか」をテーマにした講座を複数開催したが、その中でも筑波大学の卯城祐司教授が担当した8月5日の講座「英語で教える英文法」には、猛暑の中70名近い英語教員が参加。卯城先生は、文部科学省の様々な検討会の委員として国の教育政策にかかわる一方、全国英語教育学会、小学校英語教育学会の会長として日本の英語教育を牽引している一人。 本講座は卯城先生の編著である『英語で教える英文法:場面で導入、活動で理解』(研究社)の内容を研修として実施したもの。「英語で教える英文法」というタイトルは、「英語で英文法の指導を行うのは難しい」という先入観に挑んでいるようにも聞こえるが一体どのような内容なのだろうか。 使える英語を身につけるための新しい授業の形 研修は和やかな雰囲気の中、「英語で教える英文法」の意図を解説するところから始まった。 決して文法の定義や操作についての説明を英語で行ったり、英語の文法用語を使って指導したりすることではなく、「生徒が教室で学んだ時とは異なる新たな場面でも、英語が使えるようにするための、新しい授業の形を考えていこう」というのが大きな目的と卯城先生。具体的には、各文法事項が使用される「典型的な場面」を提示することで導入を行い、実際に活動させることでその文法の使い方を理解させることを狙っている。 理解しづらいような場合には、必要に応じてさらっと文法を日本語で説明してもよい、と日本語の使用も否定していない。ただ日本語を使い始めると英語への切り替えが難しく、日本語が長くなりがちなので、さっと引き上げるのが大切だという。 この方法で得られるものもあるが当然デメリットもある。「一部の大学入試で見られるような、コンテクストの少ない穴埋め問題に対応するには、授業外の時間で問題演習・添削などが必要になるだろう。ただ、それを授業で行っても英語は使えるようにならない。授業で目指すことは、生徒が自分のことばで英語を使えるようにすること。」と卯城先生は語った。 研修目的を共有したところで、講座はパワーポイントで要点を示しながら講義形式で進められた。場面での導入を行うために押さえておくべき事項として「場面」、「シラバス」について整理していく。 まず、言語の使用場面には、①特有の表現がよく使われる場面(あいさつ・自己紹介・道案内など)、②生徒の身近な暮らしにかかわる場面(家庭での生活・学校での学習や活動・地域の行事)の二つがあることを確認。続いて、シラバスの種類を整理する。シラバスには文法シラバス、場面シラバス、話題シラバス、概念・機能シラバスなどがあるが、日本の中学校・高等学校の教科書は学習する文法項目を核にして構成されているので「文法シラバス」にあたり、英会話学校での教材は「買い物」等、場面を想定して用いられる表現や使用される典型的な語彙などから構成される「場面シラバス」にあたる。学校で使用する教科書は「文法シラバス」だが、場面で導入することによって「場面シラバス」の要素を加味していくのだという。 文法事項が使われる典型的な「場面」を考える 次に、実際にどのような「場面」で導入すればよいのか、具体例が提示される。 言葉で明示的な説明をしなくても、会話文とそれに伴う動作によって、文法が感覚的に理解できる具体例を紹介していく。まずは、”I’m standing up. I’ve just stood up. “ といった教室内で実際に成立する会話例を用いて、実際に立ち上がる、ペンを持つなどの動作を伴いながらペアで発話の練習をおこなった。続いて、スポーツをしている写真を示しながら、”What is she doing?” ”Curling.” “Yes, she is playing curling. How about this picture? What is he doing?” …と話を展開していくケース。前者は自由度が少ない(統制度が高い)活動で、後者は少し自由度が高くなっている。ただし、自由度が高ければ良いというものではなく、「活動の自由度」・「取り組みやすさ」の2軸でレベル設定し、目の前の生徒の実態に合わせた活動を行えるようにすることが重要と卯城先生。 いよいよ後半は、実際に文法事項を導入する「場面(会話)」を考えるワークショップに移る。Pearson社発行のコースブック、『SIDE by SIDE』から抜粋された会話文を参考にしながら、4名で1組のグループになり、実際に現在進行形を使う典型的な場面(会話)を考え、発表する。今実際に教室で行われていることに焦点を当てたり、「普段は~するが、今は…している」というように現在形と対比することにより、現在進行形の使い方を感覚的に理解できるよう工夫している例が多く見られた。「携帯電話を触っている生徒がいて、それを講師が注意する」「職員室に質問をしに来たが、A先生は食事をしている」等、グループの数だけ「場面」も作られ、会話例が紹介された。各グループが考えた多くのアイデアをシェアできるのも本講座のポイントの一つだ。続いて比較級を導入する場面についても、同様にグループで考え、いくつかのグループが発表をした。 改善を重ねて、生徒が英語を使えるようになる授業を 講座の最後に卯城先生は、教え子からの手紙を紹介しながら「我々が授業を改善していくことで、生徒が心からわかったと感じる機会を多くする、そして生徒が少しでも英語が好きになれるよう、また授業を楽しめるようにしていくのが大切なのではないか」と語り、研修を締めくくった。 受講生からは、どのように文法を指導すればよいか悩んでいたが、場面で導入するという方法を取り入れてみたいという声や、ワークショップで実際に場面を考え、それをシェアしたことで学びが深まったという声が多かった。また指導方法だけでなく、英語教員としての在り方を考えさせられたという声もあった。 えいごネット「専門家に聞く」では、2013年5月に「高等学校新学習指導要領の全面実施」と題して、文部科学省の向後調査官による新学習指導要領解説を掲載している。そこで調査官は文法の指導に関して「文法事項はあくまでも言語活動と関連付けて扱うこと」「(ある文法事項が)使われる必然性のあるコンテクストの中でその文法事項に対する気づきを促す」というポイントを示していたが、本講座はそれを授業で実現する具体的な方法を示すものであった。 (文責:編集部 森真理子) ※関連ページ えいごネット「専門家に聞く」 高等学校新学習指導要領の全面実施 ~英語で英語を教えることでコミュニケーション能力の向上を~ 向後秀明 教科調査官 卯城先生に聞きました Q. この方式で文法を教えるには、教科書に出てくるテキストだけでは足りないと思いますが、どのようなソースから会話文例を入手すればよいでしょうか。おすすめの入手先がありましたら、教えてください。 A. 中高学習指導要領解説には、「言語の使用場面の例」として、「a 特有の表現がよく使われる場面」と「b 生徒の身近な暮らし(や社会での暮らし)にかかわる場面」、「c 多様な手段を通じて情報などを得る場面」などが紹介されていますが(bの括弧内とcは高等学校)、具体的な場面を考える上で参考となります。また、海外の映画やドラマのDVDやスクリプトは入手可能ですが、それらをもとに文法導入にふさわしい場面のデータベースを構築しておくと役立ちます。何より、普段から生徒たちの興味・関心に心を寄せて、様々な場面を頭の中でシミュレーションすることが大事です。 ※参考: ・文部科学省 中学校学習指導要領解説 外国語編 (p.25~) http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2011/01/05/1234912_010_1.pdf ・文部科学省 高等学校学習指導要領解説 外国語編 英語編(p.38~) http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2010/01/29/1282000_9.pdf (2014年9月掲載)
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- 英語教育改革の進展と今後の課題(2)
- ~成否をにぎるのは教員育成プログラム~ 金谷 憲(かなたに けん) 東京学芸大学名誉教授 2002年のSELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)開始や「英語が使える日本人」戦略構想発表から約10年、英語教育をめぐる環境は大きく変わりました。2013年12月には文部科学省から「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」も発表され、学習指導要領改訂を経て、2018年度から段階的な実施を目指しています。これまで英語教育行政と深くかかわってこられた金谷憲 東京学芸大学名誉教授に、現時点での日本の英語教育をどう評価されているか、また2020年度までに実施すべき多くの改革案についての見通しや課題についてお聞きしました。 方向性は正しいが体制整備に課題 Q. 文部科学省が平成25年12月13日に公表した「英語教育改革実施計画」を、どう評価されますか。また、長く英語教育行政にかかわってこられた立場から現時点での日本の英語教育の姿をどう評価されていますか。 A. 私は平成15年に策定された「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」および、そのフォローアップ調査などにも関わってきました。昨年12月に発表された「英語教育改革実施計画」には直接関与していませんが、この10年の英語教育改革の流れを見ていると、スローガンや計画を作ってはまた作ることを繰り返してきていて、いざその体制整備になると頓挫するような感じを受けています。大学でもそうですが、中期計画を立てて、しばらくすると見直しをして、また中期計画を立てるといったように、計画作りに追われ、実態的に改革が進んでいません。例えば、「英語が使える日本人」行動計画では、中学校卒業段階で、「卒業者の平均が英検3級程度」と達成目標が明記されていましたが、残念ながらいまでも達成率は3割程度。7割の生徒が未達という状態です。平成23年6月にとりまとめられた「外国語能力の向上に関する検討会」の「国際共通語としての英語力向上のための五つの提言と具体的施策」では、同じ目標を平成28年度までの5年間で達成と打ち出しました。意気込みはいいのですが、現実を十分に踏まえた改革でなければなりません。うまくいかないところは一つひとつ吟味し、解決していくことが必要です。 英語教育ということでは、計画の方向性や内容そのものは評価しますし、小学校、中学校、高校と広がりをもって、統一的なイメージが作られつつあり、進歩しているのは確かです。方向性は正しいが、具体的解決策、その実行性にいささか欠ける感じがします。 はじめる時期ではなく絶対量と密度が重要 Q. 「英語教育改革実施計画」の一つの柱として、小学校英語の開始時期を3学年からに前倒し、5・6学年では正式な教科にする(2018年度から実施予定)ことがうたわれていますが。 A. 小学校英語については、すでに始まってしまっていて、いまさらどうのこうの言っても仕方がないでしょう。ただ気になるのは、限られたリソースを蕎麦のように薄べったい板状にのばしてしまってはいないかどうか。英語教育の開始時期が早くなっただけで、絶対量が変わらない。ざるで水をかいだしているようなもので、なんどやっても結果は同じ。今でいうと、小学校5年、6年で週1回の授業でいったい何ができるのか。中学になると週4回。でも、その日に習ったことは次の日にはすっかり忘れてしまう。 この繰り返しです。毎日英語の授業を行うなど、ある時期に集中してやるべきというのが私の年来の持論です。ちょこちょこと低密度で学習させるのは賢い方法ではありません。6年から8年も英語学習をやっていて、この程度、もう2年増やし、また2年増やし、12年間も英語学習を継続して、それでもダメとなると、国民のフラストレーションが増えるという副作用があり、好ましい状況にならないことが心配です。絶対量の確保という意味では、5年6年の週1回の授業でどうなるものではありませんが、やっと風穴があいたので、それを大きくしていくべきでしょう。 小学校か中学校か、ということではなく、限られたリソースであれば、どこかで集中してやるべきです。いまは、ポツンポツンと一キロおきに兵隊が立っていて、敵と戦おうとしている感じです。基地がどこにもない。どこかで集中的にやればよいわけです。橋頭堡、ビーチヘッドを構築するのです。もし、小学校に固める、集中する、毎日やる、一日2時間、6年間やる、というのなら私は大賛成です。 Q. 現実問題として、誰が小学校で教科化される英語を教えるのか、という問題がありますが。 A. 教科にする場合は、教職員免許法を改正する必要があるでしょう。小学校教員免許証の場合、現状では、教科又は教職に関する科目が10科目あります。英語が教科化されると、現在ある教科の指導法に加えて、英語の指導法が加わらなければなりません。問題は、小学校の教員免許を出している大学で、教員を志望する学生に英語を教える人を配置する必要がある点です。いまは教科でないため、選択科目扱いで希望者には対応していますが、小学校で英語が教科となると、そうはいきません。東京学芸大の例で申しますと、初等科学生が500人前後と多いのですが、英語教授法などを教えるクラスを一クラス定員50人とすると10クラス以上となり、相当な数の教員を配置する必要があり非常勤講師を動員しても間に合わないでしょう。だれが英語教員を志望する若い人たちに英語を教えるのか、という体制整備が大きな課題です。 Q. 小学校で英語が教科化された場合、中学校での英語教育はどう変わるべきでしょうか。 A. 現実的には、いま中学で教えていることを小学校に下ろすことになり、必然的に中学校での学習到達点が少し高くなることになります。昨年春から、「英語の授業は英語で行うことを原則とする」ことになりましたが、なぜ高校から始めたのでしょうか。どちらかといえば、中学のほうが英語で授業を行っている比率が高いと思います。挨拶などそれほど難しくありませんし、活動も生徒にやらせればよいわけです。高校のほうがハードル高いのではないでしょうか。高校が中学のほうを見習うべきかもしれません。 選択的なリソースの重点配分を Q. 2014年度に8億600万円の予算がつき、実施期間5年で、全国56校が先日指定されたスーパーグローバルハイスクール(SGH)事業の意義について、お聞かせください。 A. 10年前でいうとSELHi 、今回はスーパーグローバルハイスクール(SGH)指定と、国が選択的にリソースを重点配分することを本気で始めたことは大きな進歩です。英語教育に特化し、しかもある方向で重点的に予算を出すことを前はできなかった。「スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)」事業については平成14年度から開始し、延べ166件169校で実施しました。 このときに何人かの委員が、高校だけでなく、中学でも実施しようと提案したが、中学校は義務教育であり、A校には予算がついてB校はダメというのは無理という建前論で無視されてしまいました。 たしかに、「遍く」ということでは日本はかなり成果を上げてきました。いま、中学は義務教育、高校は全入という時代になり、選択的にお金をかけ始めたことは大きな変化です。教育とは空理空論ではなく、実際に示すこと。どこかで実践、お手本を示し、その成果をまわりに普及していく。どこかで選択的にやるしかないのです。 この関連で10数年前に私が座長を務めた英語教育協議会(ELEC)のプロジェクトチーム(ELEC Crossroads Project)がまとめた「英語教育の目標および目標達成の方策」という政策提言の内容は、いまでも有効かつベストです。ぜひ一読してみてください。 ※参考:ELEC Crossroads Project 政策提言 https://www.elec.or.jp/teacher/crossroad_jp.html 英語教員の自主研修がカギ Q. 日本の英語教育改革の成否は、英語教育を担っていらっしゃる先生方の努力にかかっていますね A. 「英語教育改革実施計画」にある体制整備計画、教員養成プログラムが一番重要です。東京学芸大で30年以上教えてきた経験から言いますと、大学を出てすぐ英語を英語で教えるのは特別な研修なしでは無理です。学芸大では、単位にははらないのですが、一週間泊まり込みで英語漬けにする研修プログラムを、年2回実践してきました。これを2回参加し、後進の指導をする立場のリーダーとなって2回参加し、さらに一週間の単位になる演習を1回から2回受講する。この位の研修を受けてやっと、英語で英語を教えられる自信がつきます。 10年前の悉皆研修では、主に夏期、4日から5日程度、通いで9時から5時の研修を受けることが義務付けられましたが、自分が実際に教えてみる研修ではありませんでした。ある県では、70人の受講者を15人から20人の小グループに分け、リーダーを決め、模擬授業を順番に実施しましたが、大変なコストと時間がかかりました。 そこで私は、コストをかけないで教員研修を実施する方策を考えだしました。教育委員会主催方式をやめて、全国の10校に1校、模擬授業の演習できる場、「お稽古」の場所を決め、毎週土日に開講する。地域リーダーを決め、ここで何か月間か訓練するというものです。そうでもしないと間に合わない。研修ではなく、「お稽古」です。スポーツでも日本舞踊でも、年一回しか練習しないプロはいない。稽古をしないでできるスキルはありません。 問題は、学校教師が忙しすぎること。シーズンオフがなくなっています。プロ野球選手は、7か月はたらいて5か月はシーズンオフ。英語の先生方が新しいことにチャレンジする時間がない。ここがどうにかならないと、あとはどうにもならないのではないでしょうか。 (文責:編集部) (2014年6月掲載)
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- 英語教育改革の進展と今後の課題(1)
- ~改革の必要性に広範なコンセンサス~ 吉田 研作(よしだ けんさく) 上智大学言語教育研究センター長 2002年のSELHi(スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール)開始や「英語が使える日本人」戦略構想発表から約10年、英語教育をめぐる環境は大きく変わりました。2013年12月には文部科学省から「グローバル化に対応した英語教育改革実施計画」も発表され、学習指導要領改訂を経て、2018年度から段階的な実施を目指しています。これまで英語教育行政と深くかかわってこられた吉田研作上智大学言語教育研究センター長に、現時点での日本の英語教育をどう評価されているか、また2020年度までに実施すべき多くの改革案についての見通しや課題についてお聞きしました。 「英語教育がいまのままではいけない」とみんなが考えるようになってきた Q. 座長として「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」を2011年にまとめるなど、長く英語教育行政にかかわってこられた立場から現時点での日本の英語教育の姿をどう評価されていますか。 A. この10年で、英語教育の現場で意識は変わってきました。 「いまのままではいけない」とみんなが考えるようになってきたのではないでしょうか。 小学校で英語を学び始めることについて、よかったというデータもでています。中学の先生方からは、子どもの英語への意欲が高まったり、発音や聞き取りがよくなったという話もよく聞きます。 英語教育のやり方を変えるのに、いまのやり方がいいかどうか、それはまだわかりませんが、一連の改革で先生方の意識改革にメスを入れることはできたのではないでしょうか。そして「日本の英語教育、なんとかしなくちゃ」という思いはどんな立場の方でも共有できていると思います。 教科になった英語を誰が担うのかが重要 Q. 「英語教育改革実施計画」では、2020年度までの7年間に実施すべき改革案が多数列挙されていますが、その実現を危ぶむ声が聞かれています。幾つかの改革案について、見通しや課題をお話ください。 A. 小学校の英語を誰が担うのかが重要です。小学校の英語を教える教員が7万人は必要といわれています。中学校の教員、TESOLを持つALT、小学校教員を含むJ-Shineの資格をもつ人など活躍できる人材もいますが、まだまだ足りないでしょう。研修も充実するようですが、研修を受けた人材をどう活用するかも大事ですね。 Q. 達成目標も引き上げられましたが。 A. 四技能を鍛えて積み上げていけば、それほど高い目標にはならないかもしれません。 公立校高校卒業生の60%が2級レベルになるよう小学校からの英語教育の積み上げをするということです。 2級はCEFRではB1に相当しますので、高校卒業生のほとんどがこのレベルになれば、日本は英語ができる人が大勢いるということになります。 ただ、現在でも公立中学卒業で英検3級レベルが30%、公立高校卒業で英検準2級レベルが30%ですので、現状の達成率をまず上げるという考え方もできると思います。 Q. さまざまな施策にもかかわらず、英語教育の現場の変化が遅いのはなぜでしょう。 A. 大学入試の方式が変わらないからです。入試が四技能の能力を問う問題ではないからです。 センター入試の英語もreadingが200点、listeningが50点の配点では、readingに重点をおいた英語学習になります。 readingの基礎は文法と訳読だと思っている先生が大多数ですから、英語の学習方法が変わらないのです。ただ、大学入試のやりかたも変わりつつあります。 英語を四技能で鍛えてきた生徒に大学が応える準備をしています。 Q. 大学における英語教育改革はどのようにすすんでいるのでしょう。 A. スーパーグローバル大学事業もきっかけのひとつになるでしょう。タイプAと、タイプBあわせて30校あまりが選ばれる予定ですが、「英語による授業の拡大」が応募要件に入っています。つまり、英語で授業を聞き、質問し、レポートを書くことを大学では要求されるようになるので、高校までに四技能を鍛えておく必要があるのです。 ※スーパーグローバル大学等事業 https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/sekaitenkai/1319596.htm Q. 大学入試の英語の試験について、上智大学での取り組みを例示しつつ、お話いただけますか。 A. 上智大学ではすでに「CLIL(クリル)」という英語教育の考え方を、取り入れました。「英語を教える」のではなく、「英語で教える」授業ということです。また、今年の7月スタートするTEAP(アカデミック英語能力判定試験) を、2015年度の全学入試に導入します。これはまさしく四技能を問うテストになります。 今の時代をみたら、日本でも海外でもどこにいようが外国語は必要です。外国嫌いといわれる新入社員のなかでも29%は世界のどこに行ってもいいと答えています。行きたくないというという人の 理由のトップは外国語に自信がないことだと言われています。 ※参考:新入社員のグローバル意識調査(学校法人産業能率大学) https://www.sanno.ac.jp/admin/research/global2013.html 意欲はあるのに語学学習のstrategyがない、ふつうの人たちにどう底上げしてあげるのか。「いまのままではいけない」という意識をみんな持つようになった今こそ英語教育の改革を進める必要があると思っています。 (文責:編集部) (2014年6月掲載)
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- 授業実践DVDを活用して授業改善を図ろう(4)
- ~授業イメージをつかんで、指導力向上にいかす 小学校の外国語活動の原点を探る~ 小学校版(2013年):文部科学省 教科調査官 直山木綿子氏 Q. 今回のDVD作成のねらいを教えてください。 A. これまでのDVD同様、映像を見ながら外国語活動の指導の具体的なあり方について研修を深めていただくために作成しています。本単元の特色として、児童がこの単元までに慣れ親しんだ語彙や表現を使って「桃太郎」の筋が展開されること、児童がこの単元までに慣れ親しんだ語彙や表現を場面に応じて自分たちで選び、自分たちの思いを表現する劇づくりが主な活動であることなどが挙げられます。よって、本単元までの外国語活動の取り組み等が大きく影響してくる単元といえます。加えて、本単元は、そのタイトルが示すとおり、様々な違いを認め合い、世界の人たちと仲良くなろうという思いを込めて作成されています。日本の昔話である『桃太郎』を題材にしていますが、本来の『桃太郎』とは結末が違い、鬼も仲良くなって一緒に村に帰ってくるという結末になっています。また、劇づくりが主な活動であることから、学級の実態に合わせて十分にアレンジをしていただける単元でもあります。そのような単元であるため、先生方からは、どのようにアレンジしたらいいのかわからない、劇づくりをどのような手順で行えばいいのかわからないなどのご意見をいただくことがあります。そこで、本単元の実際の授業実践映像を見ながら、本単元の趣旨を十分にご理解いただき、学級の実態に合わせてアレンジをして取り組んでいただけるように作成しています。 Q. 今回のDVDの特徴を教えてください。 A. 本DVDは、四つの小学校にご協力をいただいて作成しています。本単元が学級の実態に合わせて十分にアレンジしていただける単元であることから、そのアレンジの仕方についてご理解いただけるよう以下の構成としています。 Disk 1:沖縄県宮古島市立南小学校 1単元(6時間分)の授業撮影を編集 Disk 2:静岡県浜松市立浜名小学校 1単元中第3~6時間目(4時間分)の授業撮影を編集 Disk 3:岐阜県本巣市立真桑小学校 1単元中第6時間目(1時間分)の授業撮影を編集 福岡教育大学附属久留米小学校 1単元中第6時間目(1時間分)の授業撮影を編集 Disk 1では、1単元の授業の流れに視点を当てています。どのように劇づくりを行うかの例を示しています。また、Disk 2では、学級の実態に応じた、単元後半に設定されている児童による劇づくりの有り様に視点を当てています。ここでは、Disk 1の実践とは違う劇づくりを行っていますので、どのように劇づくりを行うかもう一つの例を示しています。さらに、Disk 3では、学級の実態に応じた、単元終末に設定されている児童による劇発表の有り様に視点を当てています。ここでは、二校が、やはり学級、学校の実態に合わせて、最後の劇発表をどのように行うかの例を示しています。 Q. 収録されている授業の内容や、特に参考になるポイントを教えてください。 A. Disk 1では、どのように児童にこれまでの単元で慣れ親しんだ語彙や表現を思い出させ、それらを基に劇の台本を作成しているかが、特に参考になるでしょう。また、学級担任とALTのティームティーチングのあり方についても参考になるでしょう。 Disk 2では、グループごとに児童が劇をつくっていますが、児童の思いを劇に反映させるためにどのような手立てを学級担任が行っているかが、参考になるでしょう。児童がどのように劇をつくっていくかその様を見ることができます。 また、Disk 1~Disk 3を通して、劇づくりのバリエーションとともに、学級や学校の実態に合わせた発表形態が参考になるでしょう。 Q. 各小学校でこの単元を扱う上で先生方に特に気をつけて欲しいことは何ですか? A. 本単元の特色で述べたとおり、本単元は、これまでの外国語活動の取り組みが大きく影響します。 また、本単元では、児童が英語でまとまった話を聞く活動が設定されています。児童が積極的に英語でのまとまりのある話を聞こうとする、あるいは聞くためには、1年生から学校として「(母語で)聞く」指導が行われている必要があると考えます。また、劇づくりが主な活動ですから、児童がペアやグループで活動することが多くなると思われます。それらがスムーズになされるためには、児童同士の関係、また児童と指導者の関係が良好であることが大切です。本単元の実践は、本単元のみでなしえると考えず、2年間の外国語活動、学校組織、学級経営を意識してお取り組みいただきたいと思います。 Q. このDVDは各小学校や教育委員会等に配布されていますが、どのように活用すればよいでしょうか? A. 各学校の外国語活動の取り組みや、教員の外国語活動に対する意識等の状況により、本DVDはさまざまな活用の仕方が考えられます。以下に挙げるのはその例です。これらを参考に、各教育委員会・学校等での研修にご活用ください。 ※ 本DVDに収録されている授業の指導案が、文部科学省HPに掲載されていますので、あわせてご活用ください。 https://www.mext.go.jp/a_menu/kokusai/gaikokugo/1322195.htm 《例1》 目的:学校として外国語活動に取り組む大切さを理解する。 活用方法:映像資料を視聴し、以下の視点について授業を振り返る。 ・他学年と交流する様子や、本単元のように外国語によるまとまりのある話等を題材にする場合に児童に求められる力 ・第5、6学年において外国語活動等が充実するために学校として大切に取り組みたいこと 《例2》 目的:本単元が、2年間の外国語活動においてどのような意味があるのか理解する。 活用方法:映像資料を視聴し、以下の視点について授業を振り返る。 ・児童がこれまでに慣れ親しんだ語彙や表現を劇づくりで使ってみようとするために大切なこと ・児童が学級やグループで創意工夫しながら外国語を使って劇づくりをするために大切なこと ・児童が外国語によるまとまりのある話に関心を持ち,意欲的に劇づくりをするために大切なこと 《例3》 目的:学級担任や外国語活動担当教員の役割について理解する。 活用方法:Disk 1及び2を視聴し、以下の視点について授業を振り返る。 ・学級担任、ALTの役割 ・ティーム・ティーチングで進める授業と学級担任のみで進める授業の共通点と相違点 (2013年11月掲載)
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- コミュニケーション能力の育成のための「CAN-DOリスト」の形での学習到達目標の設定
- ~情報、考え、気持ちを伝え合う言語活動を~ 太田 光春(おおた みつはる) 文部科学省初等中等教育局視学官 平成23年6月に「外国語能力の向上に関する検討会」がとりまとめた「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」を受け、現在全国の各教育委員会および各中学、高等学校で「CAN-DOリスト」の形で学習到達目標を設定する取組がなされています。そこで、「CAN-DOリスト」設定の狙いや実施するうえでの心構えについて、文部科学省初等中等教育局視学官の太田光春氏にお聞きしました。 「CAN-DO リスト」設定の狙い Q. はじめに、「CAN-DO リスト」の形で学習到達目標を設定することの意義や狙いについてお話しください。 A. 平成23年6月に「外国語能力の向上に関する検討会」がとりまとめた「国際共通語としての英語力向上のための5つの提言と具体的施策」において、学習指導要領に基づき、各中・高等学校が生徒に求められる英語力を達成するための目標(学習到達目標)を「言語を用いて何ができるか」という観点から、「CAN-DO リスト」の形で具体的に設定することについて提言がなされました。 「CAN-DO リスト」の形で学習到達目標を設定する目的としては、次の3点が挙げられています。 ① 学習指導要領に基づき、外国語科の観点別学習状況の評価における「外国語表現の能力」と「外国語理解の能力」について、生徒が身に付ける能力を各学校が明確化し、主に教員が生徒の指導と評価の改善に活用すること ② 学習指導要領を踏まえた、「聞くこと」、「話すこと」、「読むこと」及び「書くこと」の4技能を総合的に育成し、外国語によるコミュニケーション能力、相手の文化的、社会的背景を踏まえた上で自らの考えを適切に伝える能力並びに思考力・判断力・表現力を養う指導につなげること ③ 生涯学習の観点から、教員が生徒と目標を共有することにより、言語習得に必要な自律的学習者として主体的に学習する態度・姿勢を生徒が身に付けること この提言を受けて文部科学省では平成24年7月、「外国語教育における『CAN-DOリスト』の形での学習到達目標設定に関する検討会議」を設置し、検討を重ね、その結果を「各中・高等学校の外国語教育における『CAN-DO リスト』の形での学習到達目標設定のための手引き」として取りまとめ、平成25年3月に公表しました。この「手引き」は、「CAN-DO リスト」の形で学習到達目標を設定し、活用するにあたって参考にしてもらうために作成したものです。ぜひ活用してください。 学習到達目標を生徒と共有する Q. ということは、「CAN-DOリスト」設定という課題が唐突に出てきたということではないのですね。 A. その通りです。まず、最初にはっきりさせておかなくてはいけないのは、外国語科の目標は「コミュニケーション能力の育成」だということです。このコミュニケーション能力とは、当然、4技能を基盤にしています。具体的には、「話すこと」では、一方的に話すプロダクションの能力に加え、インタラクションの能力、すなわち、人とのかかわりの中で言葉を使う能力も育成する必要があります。つまり、聞き手や読み手に配慮して言葉を使うことができるようにしなければならない、ということです。皆さんは学習指導要領が大きく変わったとおっしゃりますが、前の指導要領と今回改訂した指導要領の基本的スタンスは変わっていません。あくまで「コミュニケーション能力の育成」なんです。 そして、この外国語科のコミュニケーション能力の育成という目標は、小、中、高、で一貫しています。 現場の先生の中には、教科書を最初の1ページから最後まで教えたら、何かを教えたことになる、責任を果たしたことになる、と勘違いをしている人も見受けられます。生徒たちにとって、おそらく定期考査を除いて人生で二度と読まないであろう英語の文章を、隅から隅まで日本語に置き換え、文構造を分析的に理解することにどのような意味があるのでしょうか。それで本当に英語によるコミュニケーション能力が身に付けられるのでしょうか。答えはNOです。 文部科学省は、「教科書を教えるのではなくて、教科書で教える」ことを強調しています。そのためには、どのような力を身に付けさせたいかを明らかにし、それが生徒と共有されていなければなりません。それが「CAN-DOリスト」という形の学習到達目標なのです。 授業において先生は、いわば大型バスの運転手で、生徒は乗客なのです。運転手が目的地、ゴールを知らなかったらどうなるでしょうか。乗客は、どこに連れて行かれるのかもわからないし、どこで休憩していいのか、どこで食事を摂るのか、いつトイレが利用できるのかもわからない。運転手と乗客がゴールを共有する。それが、「CAN-DOリスト」の形で学習到達目標を設定することの目的です。 この目標は、当然、主たる教材である教科書の内容を十分検討した上で、担当者間の合意のもとに設定されなければなりません。教師には、この目標を達成させるために、教科書の内容をよく吟味し、どのような力をつけさせることに適した内容かを判断し、その上で生徒達の興味関心を引くような言語活動を工夫することが求められます。料理に例えれば、教師は、それ自体が美味しいものもあれば美味しくないものもある様々な食材(教科書のコンテンツ)をうまく調理して美味しい料理(生徒が取り組みたくなるような言語活動)を創るシェフなのです。 コミュニケーション能力を如何に測るか Q. 設定した学習到達目標を、どのように評価すればよいのでしょうか。 A. 評価では、常に妥当性と信頼性(Validity & Reliability)が問われます。当然ですが、ペーパー&ペンシルテストだけでコミュニケーション能力を評価することは不可能です。妥当性が全く担保されません。 わかりやすく言うと、学習者にとって、学校は病院と同じです。 「患者」である生徒たちの学びが改善の方向に向かう治療や投薬(指導や助言)ができなかったら、学校は失格です。 コミュニケーション能力の育成を目指す外国語科の評価がペーパー&ペンシルテストだけでよいはずがありません。身体が健康かどうかを判断するのに、手のひらしか見ていないようなものだということです。妥当性がないのです。妥当性のない評価によって得られた結果をフィードバックすることほど罪なことはありません。なぜなら患者さん(学習者)は、誤った情報をもとにその後の生活(学習)をしていくことになるからです。 各学校は、必要に応じて様々な試験等を活用しながら、コミュニケーション能力を的確に診断する「人間ドック」のような評価を実施する必要があります。具体的には、コミュニケーション能力を測るためには、即興で話すことを含めたスピーキング(プロダクション)などのパフォーマンス評価、まとまりのある内容の文章を書かせること(エッセイ)による評価、英語による面接(インタラクション)などをする必要があります。 たとえ包丁の各部の名称について熟知していて、魚の三枚おろしやキャベツの千切り、大根の桂剥きについて詳しく説明できても、包丁を握ったことのない人は、実際には魚を三枚におろすことはできません。包丁は皮を剥いたり、切ったりする道具なので、その目的で包丁を使う経験をしない限りうまく使えるようにはならないのです。英語も同様です。英語はコミュニケーションの道具ですから、コミュニケーションの道具として使い慣れないかぎり、使えるようにはなりません。どんなにたくさんの単語の意味を日本語で言えても、文法をどんなに理路整然と説明できても、それらを実際のコミュニケーションで使わない限り、役には立たないのです。入試に特化した英語教育の落とし穴がここにあります。テストでどんなに良い点をとることができても、コミュニケーションの手段として英語を使ったことがなければ、いざという時に役に立たせることはできません。単語のテストや文法のテストをたくさんしても、生徒がそれらの準備に費やす膨大な時間や労力の割にたいした成果が期待できないのです。学習者に優しい指導とはならないのです。一部に、学習指導要領は文法を軽視しているという誤解があるようですが、実際は、真逆です。「文法については、コミュニケーションを支えるものであることを踏まえ、言語活動と効果的に関連付けて指導すること」や「コミュニケーションを行うために必要となる語句や文構造、文法事項などの取扱いについては、用語や用法の区別などの指導が中心とならないよう配慮し、実際に活用できるように指導すること」とし、むしろ文法を重視しています。 教育委員会の主体性がカギ Q. 教育現場での進捗状況はいかがでしょうか。 A. 県や学校を実名で挙げることは差し控えますが、変わるところは大きく変わっています。 やはり、教育委員会の姿勢次第といっても過言ではありません。教育委員会が学習指導要領の周知徹底に本気で取り組んでいるところは、英語教育が劇的に変化しています。高校一年生だけでなく他学年においても「授業は英語で行うことを基本とする」ことを浸透させている県もいくつか現れています。 一方、残念ながら、学習指導要領ではなく受験でしょう、と考えているところはあまり変わっていないようです。同じ高校生活で、英語の時間が待ち遠しい生徒と必ずしもそう思えない生徒がいて良いはずがありません。我が子なら、あるいは、自分が生徒なら、コミュニケーション能力を育成してくれる学校と受験対策と称して役に立たない暗記を強いる学校とどちらに行かせたいでしょうか。あるいは、行きたいでしょうか。 ある都道府県では中高の指導主事がペアとなって、3年間で六百数十人の授業参観をし、指導・助言を行ったそうです。指導が行き届いているので、この県では劇的な授業改善が起きています。また、ある都道府県では、いくつかの高校が連携して、英語表現Ⅰの授業で、副教材として海外の教材(日本では大学のテキストとして使われている)を使っているところもあるようです。当然のことながら授業は英語で行い、指導を「話すこと」と「書くこと」の能力の育成に焦点を合わせ、文法を扱うことは最小限にとどめています。こうした教育を受けた生徒たちが、これから大学に入学するわけですから、そのことを踏まえた大学の英語教育の質の改善も図られていく必要があります。 たくさんの学校を抱える東京都でも、大きな動きが出てきています。 東京都教育委員会は、平成24年2月に「都立高校改革推進計画・第一次実施計画」を発表し、グローバル人材の育成を目標の一つとして、英語教育の推進に取り組んでいます。今年度は、東京都独自の英語教育改革を推進し充実を図るため、英語専門家や企業の人事担当者をはじめとする外部有識者及び教育庁関係者を委員とする「東京都英語教育戦略会議」を設置し、公立小中学校等を含め全都立高校における具体的方策の検討を始めたところで、その成果に期待しているところです。 新しい学習指導要領の実施に併せて、現場の指導に様々な変化が起きています。たとえば実態として、これまでは、学年が上がるに従って扱う副教材が受験を意識した学習参考書や問題集にシフトしていくことが多かったのですが、コミュニケーション能力を育成するという学習指導要領の趣旨を踏まえた指導に先進的に取り組んでいた学校の多くが入試でも好結果を得られたことから、学習参考書に目を向けるのではなく、オーセンティックな英語、たとえば英語のペーパーバックであるとか、ニュースや映画など、あるいは海外の英語学習用教材などに目を向けて、それらを教材として使い始めています。国内の入試を意識した学習参考書ではなく世界標準の英語に目を向けているのです。10メートル四方のプールを隅から隅まで泳がせる指導でなく、川や海でたっぷり泳ぐ指導に切り替えているのです。生徒の学習が「疑似」から「本物」に移行しつつあります。彼らは、川の流れの速さや海の深さを知っています。 入試英語も変わらざるを得ない Q. 大学入試があるために「CAN-DO リスト」の設定は無理、という声が一部にあります。 A. 学校現場では、正解が一つのことに対する指導(主に受験対策に起因)にあまりにも偏っていたので、英語に関しても、知っているか、知らないかに焦点を合わせ、使えるか、使えないかをあまり重要視してきませんでした。だから、使える英語が身につけられなかったのです。 この歪みやミスマッチを是正していかないと、大学には合格したけれど英語は使えない、とか、大学に合格したのだから英語の学習は止める、という日本人を産出し続けてしまいます。高校や中学の現場が、入試があるから変われないと言うのであれば、これを、抜本的に変える必要があります。現在、入試のあり方等については中教審で議論されています。また、政府の教育再生実行会議でも議論されています。 もし、教育再生実行会議の第三次提言にあるように、大学入試における英語の試験にTOEFL等の外部検定試験が活用されるようになったら、従来型の指導をしている高校は、英語がネックになって、生徒が希望の大学に行けなくなります。英語の能力は4技能でとらえる、というのが今の流れです。進学を目指しているのであれば、なおさら、コミュニケーション能力の育成に向かわなければなりません。 Q. 文部科学省が推進している「CAN-DOリスト」とはどのような性格のものでしょうか。 A. 今回、間違ってはいけないのは、文科省が打ち出している「CAN-DOリスト」はCEFR(Common European Framework of Reference for Languagesの略称。ヨーロッパ言語共通参照枠)のようなベンチマークというか、尺度ではありません。あなたはA1です、あなたはB1です、あなたはC2ですね、という具合に自分の英語力がどのあたりにあるかを知らせるためのものではありません。拠点校等の各学校に求めているのは、使っている教材、生徒の学習の状況、指導に割くことのできる時間数等を踏まえて、各学校の実情にあった学習到達目標をCAN-DOリストという形で作成することです。3年間で15単位ある学校と、3年間で8単位しかない学校では、当然異なったものになります。喜ばしいことに、すでに、すべての高校にこの作成を求めている県もいくつかあります。 情報、考え、気持ちを伝え合う言語活動 Q. 授業が成功しているかどうかは、何をもって判断すればよいのでしょうか。 A. 生徒が言語活動を通してコミュニケーションの成功体験をしているかどうかです。 学習の主体が生徒になっているかどうかです。全国から様々な報告がありますが、ある県では「授業を英語で行うことを基本とする」ではなく「生徒が使う英語の質をいかに高めるか」が先生方の大きな関心事になっているようです。 生徒に行わせたい言語活動は、情報や考え、気持ちなどを伝え合う言語活動です。 もちろん、学習の過程でディクテーションやシャドーイングなど、学習的な要素が強い活動も必要でしょう。ですが、本当に大切なのは、生徒が自分の立場で、自分の言葉で伝え合うことです。ですから、授業の中心は、教科書を読んで得た情報を伝え合ったり、読んだ内容について、私はこう考える、この筆者の考え方には賛同できない、とか、この主人公の生き方は納得できない、私だったら、こう生きる、と意見を述べたり、自分の気持ちを述べたりするなど、自分の立場で、自分の言葉で伝え合う言語活動でなければなりません。 先生ではなく生徒がどれだけ英語を使っているかが重要です。「授業は英語で行うことを基本とする」というと、いままで日本語で行っていたところを英語に置き換えて、Open your textbook. とか、Listen to the CD. Repeat after it. などと、先生が一方的に英語で指示をしたり、説明したりすればよいと誤解をしている教師もいるようです。これでは、生徒は学べません。繰り返しになりますが、今回の学習指導要領は、情報や考え、気持ちを伝え合う言語活動を授業の中心とする抜本的な授業改善を求めています。 また教師には、自律した学習者として、一人の学習者として、学び続ける姿を生徒に見せていただきたいと考えます。教師は、生徒の身近なロール・モデルだからです。当然、自分の成功体験に基づいて学習方法も教える必要があります。裏返して言えば、うまくいかなかった学習方法、あまり効果のなかった学習方法を生徒に強いてはいけないのです。 教育は、学習者の学びの可能性を信じることを前提とした営みです。学びの早い人、遅い人はいるでしょうが、学べない人はいない。誰もが学べる、ということを強く信じる。その気持ちが伝わる授業をすることが教師には求められます。教師が英語が大好きだと思う気持ちが伝わることも重要です。今回の、「授業は英語で行うことを基本とする」という考え方は、学習者としての教師や生徒の学びの可能性を信じているからこそ学習指導要領に記述することができたわけです。 日本人の知的レベルはとても高いと思います。英語科教師のポテンシャルもとても高いと信じています。先生方は英語で授業をすることに慣れていないだけです。生徒のために、生徒の理解の程度に応じた英語をたくさん使うことを心がけて授業をし続ければ、すぐに英語で行うことを基本とする授業に慣れると思います。違和感があるのは最初のうちだけです。利き手でない手で歯磨きをすると最初のうちは違和感がありますが、しばらくすると自然にできるようになります。 「授業は英語で行うことを基本とする」ことを求める学習指導要領も「CAN-DOリスト」の作成も、学習者に優しい英語教育の実現、時間や労力の報われる英語教育の実現のために必要不可欠なことなのです。 (文責:編集部) (2013年9月掲載)
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- 高等学校新学習指導要領の全面実施(3)
- ~英語で行う高校英語の指導の実際 2012年度ELEC春期英語教育研修会より~ 佐藤 留美(さとう るみ) 東京都立西高等学校 平成25年度より、高等学校の外国語教育で新学習指導要領が年次進行で実施される。そのなかで特に注目されているのが「授業は英語で行うことを基本とする」こと。ELECは、『2012年度ELEC春期英語教育研修会』(2013年3月25日〜3月30日)の最終日(3月30日)に、「英語で行う高校英語の指導の実際(1)(2)」と題するワークショップを企画・開催した。講師は、長年英語による指導を実践されている東京都立西高等学校の佐藤留美先生。3月末の土曜日にもかかわらず、50名を超える高校の英語教員らが参加した。 4技能の総合的育成を目標にした授業づくり – 授業目標 ワークショップでは、佐藤先生の勤務校のカリキュラムや使用教科書を紹介したあと、すでに勤務校で行っている先生の授業目標を説明した。その目標とは——。 (1)1、2年次では英語で書かれたものは英語で理解し、書かれた英語を使用し、まとめたり、それに対する意見を英語で表現する力をつける。 (2)1、2年次にしっかりproductiveな、使える語彙力をつける。 (3)授業で英語を使用することによって触れる語彙を増やす。 (4)自ら進んで発言する意欲を引き出す。 (5)3年次は書かれたり、聞いたりしたものを日本語でまとめたり、日本語で書かれたものを英語で要約したり、日英の言語の違いに注目し2言語が使えるようにする。 この授業目標は、「コミュニケーション能力の育成」を掲げ、「4技能(「聞くこと」「話すこと」「読むこと」および「書くこと」)」を「総合的に育成」することを求めた新学習指導要領の目標を十分反映したものとなっていて、どの項目も、従来型の英文読解や文法の授業とは異なり、発信型のスキル習得に力点が置かれている。 教員が英語を使うことでクラスの雰囲気も変わる – 授業体験 授業体験は、『知の風景 国公立入試長文へのアプローチ』(山口書店)のChapter6 Internationalization and Diversificationを教材とした英語IIをモデルとして行われた。5〜6人のグループのメンバーが対面できるように机を配置し、参加した教員を生徒役にして授業体験に入った。 まずは英文の音読。その方法は、参加者全員を立たせて、音読させ、読み終わった人から着席していくというユニークな方法。そして単語の意味の確認は、英語で書かれたdefinitionから文中にでてきた英単語を考えさせた。さらに自分が1分間で読める語数を測る《Reading Contest》、自分の考えをまとめる《What do you think?》などの仕掛けもあり、英語によるコミュニケーション力を高めるためのメニューが実に豊富な点にまず驚いた。 しかも、これらのアクティビティはすべてグループやペアで行う。ストップウォッチを片手に、次々に作業内容を指示。生徒に退屈させない参加型の授業だ。佐藤先生によれば、参加型の授業にすることで、生徒の柔軟な発想や考えに触れることができて、先生自身が学ぶことも多いのだと言う。「教員自身が楽しくないと、生徒は絶対に退屈します」と実践する喜びを強調する。またグループにすることで生徒たちの間で発言する機会が増やせるのも大きなメリットだ。 その間の指示はすべて英語。「生徒に英語を使わせるためには、教員が英語を使わなければいけない。教員が日本語で、生徒には英語で、とは言えませんよね」と佐藤先生。英語を使わせるための雰囲気作りも含めて、教員が英語を使うことの重要性を説く。「英語で授業をすることは怖いかもしれないけれど、教員も英語を使うことによって英語が上達するのです。私の英語は今までの経験で培ったものです」。一方、生徒には、”Pick me!”(私をあてて)と言わせて挙手させるなど、英語による発言の自主性を育む工夫も見られた。ただ、文法の授業は日本語で行うほうが分かりやすいとも指摘。コミュニケーションツールとしての英語と、決まり事を学ぶための文法へのアプローチを明確に分けている。 英作文は生徒が使った英語を生かすことが大事 – 英作文の授業 次は英作文の授業を体験。教科書の英文を和訳したものを課題として提示した。参加者が各自英文を書いた後、グループで回し読み。他人が書いた文章から新たな発見ができるとともに、他人に読んでもらえるような文字を意識させることもポイントなのだそうだ。ここで気をつけるべきは、生徒の書いた英文を生かしながら、正しい文法や適切な単語を伝えることが大事だという。「生徒が書いた文章を全部×にして、解答例だけ書けば教員は楽ですが、生徒からすればせっかくの努力を台無しにさせられた気分になるのです」。表現方法にはさまざまな方法があることを知ってもらうことが実力になると先生は言う。 午後のワークショップは、「授業力アップのためのワークショップ」として、teaching planの作成を実践。各自で作成したものをグループでシェアしたあと、グループとしてのteaching planを作成して、グループごとに発表させた。 1日の最後には、理想とする教師像とよい授業のための4つの手順として、William Arthur Wardの言葉を全員で音読して1日のワークショップを締めくくった。 “The mediocre teacher tells. The good teacher explains. The superior teacher demonstrates. The great teacher inspires.” “Four steps to achievement: Plan purposefully. Prepare prayerfully. Proceed positively. Pursue persistently.” 単語帳で単語を覚えて、文法問題を解いて、英文を読んで訳すといった英語授業との差は歴然で、教員自身が英語を使いながら、生徒とのコミュニケーションを図り、教員が生徒のグループのアクティビティに参加するという新しい授業スタイルのメリットを強く実感させる研修会でもあった。 (2013年5月掲載)