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小学校中学校の新学習指導要領が公示―小学3年生から英語教育が始まると何が変わるのか

 

平木 裕(ひらき ひろし)

文部科学省視学官

 

[プロフィール]

文部科学省初等中等教育局視学官。広島県公立高校教諭、指導主事を経て、国立教育政策研究所教育課程調査官、文部科学省初等中等教育局教科調査官。平成29年より現職。

 

 

文部科学省は2017年3月31日に新学習指導要領を公示した。小学校英語の教科化などが盛り込まれており、注目を集めている。小学校は2020年度、中学校は21年度から実施される新学習指導要領について、この数年間、改訂に取り組んでこられた平木視学官に英語教育という観点から、今回の学習指導要領の改訂の意義について語っていただいた。(文責 編集部)

 

 

新指導要領は外国語教育に追い風

 

Q. 新学習指導要領は、外国語教育にはどんな意義を与えることになるでしょうか。

 

A. 新学習指導要領では、外国語に限らず、「何ができるようになるか」ということがそれぞれの教科で明確に出されました。現行の「基礎基本の知識・技能と、思考力・判断力・表現力のバランスを取ろう」というのは維持しながらも、どういう資質・能力を具体的に求めていくかということが、かなり議論されています。結果として三つの柱、すなわち、知識・技能(何を知っているか、何ができるか)、思考力・判断力・表現力等(知っていること・できることをどう使うか)、学びに向かう力・人間性等(どのように社会・世界と関わりよりよい人生を送るか)が明確に設定され、それぞれを各教科等で具体的に議論するところから改訂の作業が始まったと言ってよいと思います。

 

外国語の場合、何ができるようになるかについては、CAN-DOリストの形で、学習到達目標を各中・高等学校で設定する取り組みを進め、今年度で5年目になりました。中学校、高等学校ともにかなりの割合で設定が進み、昨年度段階で中学校では約7割、高等学校だと約8割が設定しています。英語を使ってどんなことができる生徒にしていくのかというのは、もうここ数年ずっと言ってきたことで、その同じスタンスで今回は改訂がなされたという意味において、外国語にとっての追い風になっているというのが端的な印象です。

 

Q. ただ、CAN-DOリストについていえば、作ったリストの運用がなかなかできていないという意見もありますがどうでしょうか。

 

A. 中学校では7割強の学校で設定は完了していますが、それを活用して指導と評価の改善を図っている学校となると、そのうちの半数に満たなくなってしまう。全体で言うと3割ぐらいの学校でしか活用ができてないかもしれません。作っただけになっている。CAN-DOリストが全く見えないような単元計画だったり、現在完了形とか、受け身など文法事項の定着を目指すことが先にきたりしている。だから英語によるコミュニケーションを目指しているはずでも、それが本当のコミュニケーションといえる授業となっているかどうか。まだ今でも「練習」のレベルにとどまってないかなというのが実態です。

 

Q. CAN-DOで達成目標を設定するということと、例えば英検で何級をとるとか、CEFRのどのレベルまでに子どもたちのレベルを上げるという目標とはどうしても裏腹な関係になります。ところがなかなかレベルが相対的に上がってこないという結果報告もあります。ここはどう見たらいいんでしょう。

 

A. 例えば英検だったら、ある中学校は3級程度と言っている。これはあくまでも一つの例です。決してすべての中学生に「英検3級」を取らせてくださいとは、言っていません。結局CAN-DOの話に戻るんです。つまり3年間で学習指導要領に示された言語材料をうまく使って、示された言語活動をきちんと行って、学校がそれに照らして設定した「こういうことができる」という目標を目指して3年間指導する。最終的にそれができるようになったのなら、その生徒は例えば英検だったら3級程度はクリアしているっていう、そういう判断です。だから3級を受けるっていうことが第一義ではなくて、CAN-DOできちんと生徒につけるべき力を学校が設定し、生徒と共有し、普段の指導で力をつけていって、しかるべき機会に評価をきちんとする。生徒の力をきちんと把握していくっていうことです。それが3年生の最後の段階で、みんなクリアできたよねって言ったら100%英検3級程度の力がついていますっていうことになるのです。

 

小学校での英語導入で変わる英語教育

 

Q. これから小学校3年から英語がはじまります。日本の英語教育は変わると期待してよろしいんでしょうか。

 

A. 今の教育課程ではあくまでも外国語活動です。したがって、英語に対する好きという気持ちを高め、中学校に行って、英語の力をつけたいと思う子どもたちを育てることが第一の目標です。今度はそこからちょっと踏み込んで、3、4年生で態度面を中心にした指導をしたうえで、5、6年では、教科として扱う。教科として扱うということは、ある程度のスキルを身につけることを求めています。特に聞く、話すについては、当然現行とは異なってきます。

 

Q. ここを失敗すると先がないので、慎重にとどうしても思ってしまいますが。

 

A. 期待とともに、教科となったら、どこまでやるんだという不安を抱える先生もいらっしゃると思います。われわれのイメージとしては、子どもたちにとっての英語とのかかわりが、4年生から5年生で、つまり教科になった途端に、がらっと変わるわけじゃないと思っています。子どもたちが英語に接するっていうことに関しては、3年生も4年生も5年生も6年生も中1も同じようなスタンスでいてほしい。だから教科といっても、現在の中学校と小学校外国語活動の間に挟まるようなかたちでの教科になるわけです。中学校の一部を切り取ってくるわけじゃない。5、6年生ならではの発達の段階に合った、これまでになかったかたちの教科です。

 

 

中学校の課題は、小中連携

Q. 小学校がそうやって変わってくる。そうなると、視学官が担当されてきた中学校の課題ということを少し伺えますか。5年生、6年生で英語が好きになりました。でも中学校に行ったら嫌いになりましたというケースもあるようで、中学校としての課題を、先生はどうご覧になっていますでしょうか。

 

A. 小学校での学びをどう引き継ぐかがポイントになります。小学校6年と中1で言えば、外国語という教科でのつながりです。いわゆる英語慣れしているとか、活動するのに抵抗がないとか、ALTが部屋にいても特に違和感がないとか、成果はいっぱいありますが、特にスキルとして何かを身に付けてきているわけではないと思います。
今度は学習指導要領で、はっきり5、6年生の指導について言っていますから、中学校の先生は、それをきちんと引き継いで、スタートラインを決めなければいけない。今以上に小中の連携が必要になります。中学校に入ったら急に授業のスタイルが違って、座ったまま英語の授業を日本語で聞くというようなことになってしまうと、小学校で大きな改訂をした意味がなくなってしまいます。

 

Q. 小中連携では今までもいろんな取り組みをしてきました。それをさらに加速するために具体的にどんなことを、お考えでしょうか。

 

A. 中学校区の単位が一つのポイントになると思います。校区の小・中学校の先生方が、いかに普段からつながりを持って仲よくなっておくかということでしょう。それは必ずしもいつも対面でなければということではありません。同じ校区でも何キロも離れていたり、校区に5、6校の小学校があったりする場合もあります。そんな時は、ICTをうまく利用してお互いの情報交換ができるよう、常にパイプをつないでおくっていう、少なくともそこはしておいてほしい。小学校ではどういう指導をやっていて、どんな教材を使い、子どもたちはどんな様子なのか、できれば映像も提供してあげるとか。もちろん授業を見に行くっていうのが一番いいんですけれども。

 

今回の学習指導要領改訂のポイントの一つが、小中高を通じて育成するべき力ということで、目標の一貫性ということがあります。今回の改訂では、小学校3年生の外国語活動から、中学校の外国語科まで領域ごとの目標を一覧で示しました。

 

話すことを「やり取り」と「発表」に分けて、5つの領域で、こういう系統表を作って、小学校の外国語活動から教科、中学校の教科へと流れが見えるようにしています。小学校5、6年の先生が中学校の授業を連携で見に行くと、自分のやっている言語活動との関連、中学校ではどんなふうな活動になるのかっていうことが見えるんです。中学校の先生が小学校に行くと、これは小学校でどういうふうにやっているのかがわかる。そのあたりでうまく接点が今度は作れるんじゃないか。だからこそ先ほどのCAN-DOリストの形での学習到達目標っていうのが、今以上に今度は効いてくると思います。

 

 

中学の先生がたに伝えたい2つのポイント

 

Q. 小学校の5万人ぐらいの教員と、中学校は2万人の英語の先生とが一つのくくりになるようなイメージですね。そのほかに、中学校の先生にお伝えしたいことは何かありますでしょうか。

 

A. 小学校では、「文法事項」という言い方はしませんが、文構造なんかも扱うし、表現としてはto不定詞とか、動名詞とかも出てきます。それらも含め、文法事項として学ぶわけではありませんが、過去形も入れることにしました。小学生は体験的にこういう表現を使ってきている。それを中学校では自分で考えてそれが使えるようにしていくというところが接点です。だから小学校で扱った語彙とかルールを何回もスパイラルに中学校では繰り返し使っていく。それが一点。もう一つは、高校への接続です。今回授業は英語で行うことを基本とするという規定を高校同様に中学にも入れましたけど、その意味を、きちんと中学校の先生は理解しないといけないっていうことです。

 

Q. 具体的にはどういうことになりますか。

 

A. 要は授業のスタイルを変える必要があるという意味です。単純に授業は全て英語で行うべきだ、というのが趣旨ではなく、生徒が英語を使った言語活動を行うことが中心の授業に改善していくっていうメッセージです。きちんと生徒とのやり取りができる英語力を培ってほしい。生徒たちが活動するときにサポートができる英語力、そして指導力が必要になりますね。

 

Q. この数年でもその方向は出ていたし取り組まれている先生も多かったと思うので、中学校の英語の先生にとって新しい取り組みとはならないのではありませんか。

 

A. ただ、まだ誤解が多くて、国の調査で教員の英語使用の状況はパーセンテージが出ていますよね。中学校の場合は、昨年度の調査で言うと、1年2年3年ともに60%ちょっとの先生が半分以上英語でやっています。ただ半分以上英語でやっていればいいのかというと、実はそうでもない。最近拝見した中3の授業では、先生は英語を使っているが、子どもたちは英語で全くコミュニケーションしていなくて、ただ練習に終始している。

 

Q. いよいよ変化の波が中学校にも、きたということですね。

 

A. そうです。どうしても中学の場合は、今の学習指導要領では「コミュニケーション能力の基礎」という言い方もしているし、すべての言語材料が初出になります。そういう意味では一から学ぶことになっていることは確かなんですが、小学校の授業スタイルをリセットしてしまっているようなケースが多いのは残念です。

 

 

文法指導は変わるのか

 

Q. 例えば文法の指導についても、新学習指導要領では少しふれられていますが、こういうかたちで教えてほしいっていうようなものは、何かありますでしょうか。

 

A. 文法に限らず、言語活動を行うときに、必要な言語材料を活用するっていうスタンスです。言語材料は教え込むためにあるのではなく、言語活動を行うために必要な言語材料をうまく生かして、それを使ってコミュニケーションする。それによって、言語材料の理解が進むという、サイクル的なイメージが今回もはっきりと出ています。「往還的」という言葉をよく使うんですけども、思考・判断と知識・技能が行ったり来たりするイメージが強いんです。

 

Q. あくまで言語活動主体で、この中で自然に言語材料を学んでいってほしいっていうことですね。

 

A. 今回踏み込んだ書き方をしたところがあります。その一つが、「指導計画の作成と内容の取り扱い」です。そこに「実際に英語を使用して、互いの考えや気持ちを伝え合うなどの言語活動を行う際は」という部分があります。つまり、言語活動っていうのは実際に英語を使用して互いの考えや気持ちを伝え合うというのをまずは前提にし、必要があれば理解したり練習したりするための指導を行うことというスタンスに変えたのです。

 

Q. 革命的な変化だ。そうすると小学校で過去形が出てくるというお話をされていましたけれど、それはたぶん会話の中で過去形は、たくさん出てくる・・・

 

A. そう、場面の中で出てきます。たとえば、「今日、学校へ行きます」っていうときのgo to schoolのgoと、I went to school yesterday.のwentが、goを昨日だったらwentになるんだっていう教え方をするわけではない。あくまでも昨日っていう場面設定において話す中で、I went to school.と言う。

 

Q. 中学では、後づけでgoの過去形がwentだと教える。

 

A. そうです。その理解を伴って、汎用性のある過去形の使い方ができるようにしていく。動名詞も、want toのto不定詞もそうです。あくまでも一つの表現として扱うっていう位置づけです。

 

大学入試は変わるのか

 

Q. 高校については、外国語の場合は前回の改訂で大幅な改訂がありましたが今回はどうでしょうか。

 

A. 現在、まだ改訂作業中ですので、はっきりとしたことは言えません。現行の学習指導要領においては、「コミュニケーション英語」という総合的な英語を扱うものと、「英語表現」っていうプロダクティブな面を重視するのと大きくは二つです。その方向性は大きく変えることなく科目名を変更し、より効果的に二つの科目が機能するように差別化を図るとともに、高校卒業段階での英語力の高度化も目指したいと考えています。

 

Q. 編集部そうすると高大接続というか、大学受験に関心が移りますが、四技能試験の導入で民間の業者試験がかなり浸透してきました。この流れを視学官は、どうお思いになりますか。

 

A. やはり学習指導要領で求めていることと大学入試で見ていることに、大きなずれがあるのは望ましくないことなので、学習指導要領で求めていることをきちんと大学側も見てほしい。大学入試センター試験ではリスニングとリーディングの面をきちんと測ることができているという大きな成果はありますが、いかにしてスピーキングとライティングを見ていくかっていうことですよね。当面は、センター試験を生かしながら、特に話す、書くのところが見られる外部の資格検定試験を生かす。ゆくゆくは国できちんとそういった面も見られるようなものを開発して、全国一律で見られるようなものができると本当はいいのですが。

 

Q. 信頼性の高いテストで、なおかつ廉価で提供できる試験ですね。

 

A. 全国どこの地域でも同じような条件で、ということが求められていると思います。

 

  ― そうですね。いろいろありがとうございました。

 

 

(2017年8月掲載)

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