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授業実践DVDを活用して授業改善を図ろう(1)

~英語で行う授業のイメージをつかんでほしい 平成25年度から年次進行で実施される高等学校学習指導要領への円滑な移行に向けて~

 

高等学校版:文部科学省 教科調査官 向後秀明氏

 

 

Q. 今回のDVD作成の目的は何ですか?

 

A. 最大の目的は、各高等学校等が、来年4月からスタートする高等学校学習指導要領「外国語」へ円滑に移行できるようにすることです。新しい学習指導要領では、第3款の4に「授業は英語で行うことを基本とする」と規定されており、この大きな変革をするにあたって、先生方の迷いや悩みを少しでも軽減し、英語で授業を行うことのイメージをつかんでいただくために作成しました。

 

Q. 今回のDVDは、平成22年度に出された映像資料1・2に続いて2度目となりますが、前回と比較して、特に意識されたポイントは何ですか?

 

A. 「授業は英語で行うことを基本とする」という規定が意味することは、2つあります。1つ目は、「教師が授業を英語で行う」こと。そこで、前回のDVDでは、教師が使う英語に重点を置きました。それに対して今回は、その2つ目の意味、「生徒も授業の中でできるだけ英語を使う」ということが実際にどのようなことであるのかを映像でお見せしたいと考えました。ですから,今回のDVDでは,生徒のペア・ワークやグループ・ワークの場面が多くなっています。教師が授業で話す英語を中心に紹介した平成22年度版と併せて参考にしていただければと思います。

 

Q. 今回収録されている5校を選んだ基準は何ですか?

 

A. まず、第1学年から第3学年まで全学年の授業を撮影できるように計画しました。次に、撮影する学科が固定されないように、そのバランスを考えました。普通科だけに偏らず、特色のあるスーパーサイエンスハイスクール(SSH)の理数科や、専門学科である生活文化科の授業も取り入れました。最後に、先生が先行して新学習指導要領の趣旨を生かした授業を行っていることを条件としました。これらの3つが、撮影する学校の大きな選定基準になりました。

 

Q. DVD全体で、特に見てもらいたいことは何ですか?

 

A. 第1学年の授業を入れた理由の一つは、「英語の知識を十分に詰め込まないと生徒は英語を話せるようにはならない」という固定概念を崩したかったからです。そんなことを言ったら、多くの日本人はいつまでたっても英語を話せないことになってしまいます。生徒たちが、第1学年の最初から、英語を実際にコミュニケーションの中で使いながら習得していく様子を見ていただきたいと思います。

 

第2、第3学年の授業は、大学受験などを口実に日本語による指導に戻してしまっては英語力がつかない、という目で見ていただきたいと思います。また、生徒が身に付けるべきコミュニケーション能力とは何か、ということを感じていただきたいのです。ちなみに、撮影は2月を中心に行いましたので、第3学年は卒業直前の授業ということになります。

 

授業を英語で行う際は、先生と生徒との信頼関係(rapport)、そして、先生と生徒,生徒同士が互いに信頼し合い敬意を払うこと(mutual trust and respect)が非常に大切な要素になります。目の前にいる生徒をしっかり見て、信頼関係を作った上で、生徒たちが安心して英語を学習できる環境を提供する必要があります。英語はコミュニケーション能力を育成する科目なので、まずは先生と生徒たちとの間でコミュニケーションがとれていることが重要です。その点を、収録されている各授業で見ていただきたいと思います。

 

Q. 5校の授業それぞれのポイントは何でしょうか?

 

A. 教科書の内容を英語で理解するとはどういうことかについては、茨城県立竹園高等学校の植木先生の授業を見ていただくといいでしょう。教科書の内容を口頭で要約したり、生徒自身の考えを含めたロール・プレイで表現したりする活動を通して、日本語を介さずに理解させています。

 

山形県立楯岡高等学校の柴田先生の授業では,単元の導入として,プレゼンテーションを行っています。教科書に書かれている内容をテーマとして取り上げ,生徒が自分たちの考えを出し合い,ペアで発表したり,他生徒の発表に対して感想や意見を述べたりする活動を見ることができます。

 

「生徒の言語活動が中心となった授業」とはどういうことかについては、群馬県立中央中等教育学校の津久井先生の授業を見ていただくといいでしょう。教師がコントロールし過ぎず、生徒のペア・ワークやグループ・ワークが中心となって授業が進められています。50分の授業時間のうち、教師は10分程度しか話さないという授業もあるのです。ここに至るまでにはその前段階があり、文部科学省のホームページにアップされている学習指導案を見ていただくと、どういう指導過程を通して生徒の言語活動が中心になっていくのかがおわかりになると思います。

 

これからの英語教育の在り方の一つとして、理数教育を専門に行っている学科での英語教育とはどういうものかについては、千葉県立長生高等学校の三上先生の授業があります。この学校は、スーパーサイエンスハイスクールに指定されていて、外国へ行ったりテレビ会議システムを利用したりして、科学研究の成果を英語でプレゼンテーションできるようになることを目標にしています。また、最初に授業の全体像を生徒に見せることや、各言語活動に関する生徒への指示が端的で的確であることも、三上先生の授業の特色です。

 

岐阜県立東濃実業高等学校の亀谷先生の授業をひと言で表すならば、生徒との確固たる信頼関係に基づくコミュニケーション教育を英語で行っている、ということです。教科書の内容を理解するのはあくまでも最初のステップで、教科書から得た情報や考えなどに対してどのようなアウトプットを生徒に求めるかということについて、ひとつのモデルになっています。しかも、この学科では、英語の授業は3年間でわずか8単位であり、その限られた時間の中でどのようにしてここまでもってきているのかということにも注目していただきたいと思います。

 

Q. DVDを学校や自治体でどう活用すればよいでしょうか?

 

A. 個々の先生方が視聴して参考になった点や、それを自分の授業でどのように応用していくかにについて、外国語科全体で話し合っていただきたいと思っています。

 

茨城県では、前回配付したDVDについて、教育委員会がすべての学校に報告を求め、その結果を「DVD視聴報告書-新学習指導要領『外国語』に対応した授業作りに向けて-」としてまとめています。ここでは、各高等学校の先生方がDVDの授業から学んだことと、それを活かして授業で実践した結果をそれぞれ1ページに記入してあり、言語活動の事例集としても使うことができます。この報告書は県内の全県立高等学校及び中等教育学校に配付し、先生方同士で情報が共有できるようになっています。また、石川県や京都市などでは、このDVDを参考に、それぞれの自治体版を作っていただきました。各自治体では、このような活用の仕方もあります。

 

Q. 今回は、学習指導案が文部科学省HPに掲載されていますが、これらとDVDを併せてより効果的に活用する方法を教えてください。

 

A. 授業映像だけでなく、学習指導案も是非併せて見てもらいたいと思います。また、学習指導案を見てからDVDを見るという方法も考えられます。

 

まず、第三者にとってわかりやすい学習指導案とはどういうものなのか、学習指導案の形式や構成そのものを見てください。その中で、指導内容・方法だけではなく、目標や観点別学習状況の評価に基づく評価規準の立て方も参考にしていただきたいと思います。

 

次に、収録されている授業の位置付けがわからないままでは視聴するポイントがつかめないので、当該単元においてどういう流れの中での授業なのかを見てもらいたいと思います。DVDの前に学習指導案を見いただくと、より効果が高まります。

 

最後に、1コマの授業をどう構成しているか、ということです。高校生は1つの活動を10分くらい続けると飽きてしまう場合がありますが、今回収録した授業の学習指導案を見ると、基本的には約10分を限度として活動が切り替わっていることがわかります。

 

Q. 自分の勤務する学校種以外のDVDを活用する方法についてアドバイスをお願いします。

 

A. 全ての高等学校が集まるような研修会で、特に直前の中学校の様子を見ていただきたいと思います。中・高連携を効果的に進めていくためには実際に授業を見ていただくのが一番いいのですが、それが難しければ、DVDを活用していただくことができます。また、小学校外国語活動の授業には、高等学校の先生方が授業改善をしていく上で、多くのヒントが含まれています。小・中学校の先生方が児童・生徒に対してどのような英語を話しているか、使用語彙や話すスピード、間の取り方、さらには児童・生徒との接し方など、高等学校の先生方に学んでいただけることがたくさんあります。

 

今回の学習指導要領改訂では,小・中・高の外国語教育を「コミュニケーション能力」という言葉でつなげています。3校種の連携を推進させるために,ふだんはなかなか見る機会のない小学校や中学校における英語教育がどのように行われているのかを知る機会としてご活用ください。

 

 

(2012年10月掲載)

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