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- 授業実践DVDを活用して授業改善を図ろう(3)
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~授業イメージをつかんで、指導力向上にいかす 小学校の外国語活動 これからの課題解決に向けて~
小学校版(2012年):文部科学省 教科調査官 直山木綿子氏
Q. 今回のDVD作成の目的は何ですか?
A. 小学校の先生方による外国語活動の指導力向上です。外国語活動が本格実施となって約1年半が経過した現在の大きな課題は、教員の指導力向上と、そのための研修をどうするかです。そこで、授業の様子を映像で見てイメージをつかんでいただけるように、DVDを作成しました。
Q. 今回のDVDは平成22年度に続いて2度目ですが、前回と異なるポイントはどういったところですか?
A. 前回は、「ALTとのティーム・ティーチングの在り方」や「教室英語の使い方」など、テーマごとの授業を5つ収録しました。それに対して今回は、1単元を通して授業のイメージをつかんでいただけるようにしています。1単元、あるいは1年間でどんな子どもに育てたいかというゴールをもって、1時間の指導、あるいは1つずつの活動を行っていただくことが大事だからです。1単元のなかで単元目標に向けて、どのように活動を仕組むかについてはテロップなどでも解説しています。また、今回は、授業者の方への指導のポイントのインタビューも収録しています。授業者の思いがあって、授業が展開されています。DVDをご覧になる方々に、直接それを感じてほしいと思っています。
Q. 収録されている授業の内容や、特に参考になるポイントを教えてください。
A. 今年4月にお配りした外国語活動教材“Hi,friends!”を各学級の子どもに合うようにアレンジして活用いただいています。
5年生の授業では、“Hi,friends! 1”のLesson 4(東京都大田区立志茂田小学校小林教諭)を取り上げました。子どもたちはこの単元で初めて英語の文表現に出合います。また、子どもたちがよく知っている外来語のもととなる英語が設定語彙とされていて子どもたちを外国語に親しませ、日本語と英語の音の違いから言語への気づきを引き出しやすい単元となっています。
外国語活動では、言葉でコミュニケーションを図る楽しさや難しさを体験させることが大切です。したがって、単元の最後に設定されるコミュニケーション活動は、子どもたちが話したい、あるいは聞きたい題材を扱い、やってみたいと思う活動にすることが必要です。収録されている授業では、“Hi,friends!”で設定されている活動にアレンジを加えて、自分の好きなものや好きなことを友だちに尋ね、相手にそれをもっと好きになってもらえるようアドバイスカードを渡す、“My Best Friend”という活動を行っています。
5年生は外国語活動の授業が初めてなので、不安感を抱く子どもが多くいると思われます。収録された授業にも、不安を顔に出している子どもがいます。それを先生は見ていて、ずっとその子どもに寄り添います。その子は5時間目に、自分の好きなものについて友だちにインタビューに行きます。“Do you like 〜?”と聞くと、“Yes, I do.”という答えが返ってくる。すると、「うれしい」という顔をその友だちではなくて、その後ろで見守っている担任に向かってするのです。ずっと心配してくれていた先生に、その子は応えようと思うわけです。その姿を見て、担任も一緒になって喜びます。そうした学級経営のあたたかさが見えます。
6年生の授業では、“Hi,friends! 2”のLesson 3(徳島県鳴門市林崎小学校 中妻教諭)を取り上げています。この単元の特色のひとつは、can(〜できる)という、自己肯定感を伴う表現を扱っていることです。高学年というと、だんだん自分の限界が見えてきて、自己肯定感がだんだん低くなってくる時期です。そこでこの単元では、自分たちにはこんなことができると自信をもつとともに、特別なことができなくても、あなたがそこにいることがとても素敵なんだと、お互いを認め合ってもらいたいと思っています。
また、小中連携を意識し、去年この学校を卒業した中学1年生がビデオで登場します。子どもたちは、自分たちが知っている先輩が英語でスピーチするのを見て、憧れを感じます。6年生のスピーチには日本語が少し入りますが、中学校に行ったらそれを全部英語で言えるようになる、というメッセージなのです。
6年生になると思春期で、5年生よりもさらに異性が気になりますが、自分の気持ちを素直に表現できません。そこであえて、男女のペアワークを多くし、ハイタッチや握手を取り入れています。そうすると、子どもたちは、男女の垣根なしに活動を行うようになります。
また、5年生と6年生の単元で扱っている、好きなものや、できること・できないことは、人によって様々です。そのため、子どもたちは、本単元の授業でやりとりをして、友だちの新しい一面を発見するでしょう。言葉というのは人のことを知るためにあって、決して人をやっつけるための道具ではない、ということを子どもに感じてもらいたいという思いでつくった単元であり、DVDでもこれらを取り上げたいと考えました。
Q. 授業の収録に当たって、留意されたことはどのようなことですか?
A. 1つの単元を通して授業を撮影するので、撮影が2週間から1カ月の長期にわたり、ご指導いただく先生だけでなく、学校にもかなりの負担をおかけすることになります。そこで、学校長や学校の教職員の皆さん、教育委員会の十分なご了解とご支援をいただいて、授業収録をさせていただいています。
Q. このDVDは各教育委員会や各学校に配布されていますが、これをどう活用すればよいでしょうか?
A. 目的によって活用の仕方が異なると思いますが、DVDに添付した資料も参考にしてください。そこでは活用の仕方を3つ例示しています。
1つ目は、先生方が外国語活動のイメージをもち、積極的に外国語活動の指導に当たる意欲を高めることをねらいとする場合です。指導案に目を通した上で、DVDを見ていただきたいと思います。そして、それぞれの活動のねらいや、学級担任が使用している英語の量や種類などについて、先生方同士で話し合っていただければと思います。指導案で授業の目的や目標をあらかじめおさえておくと、授業を見る視点が変わります。
2つ目は、先生方が単発の活動ではなく、1単元でどのような力を子どもに付けるのかを意識し、より積極的に外国語活動の指導に当たることをねらいとする場合です。指導案の単元目標と各時間の目標に注目して、単元計画や指導案に目を通した上で、DVDを見ていただきたいと思います。そして、DVDの各授業の最後に設定されている子どもたちの振り返りを見てください。
子どもたちは、1時間目の振り返りでは、「この活動が面白かった」などと、自分や活動のことを話しますが、コミュニケーションをねらいにした5時間目には、「友だちのこんなことがわかってうれしかった」というように、コミュニケーションについての感想を述べるようになります。
3つ目は、学級担任や外国語活動担当教員の役割について理解いただくことをねらいとする場合です。まず、6年生のDVDで、学級担任、ALT、中学校英語科教員の役割と、ティーム・ティーチングで進める授業と学級担任だけによる授業との共通点や相違点を見てもらいたいと思います。その後で、学級担任だけで授業する5年生のDVDを見ていただくと、デジタル教材や音声CDを活用し、簡単な教室英語を使っている様子がよくわかります。
また、それぞれの授業のあとで、1単元の授業を振り返る担当教諭へのインタビューを収録しています。研究授業などで指導助言を行う場合などで、どのような視点から授業を参観すればいいかを理解するヒントになると思います。
Q. 中学校や高校のDVDも活用できるでしょうか?
A. それらもぜひ見ていただきたいと思います。中学校のDVDに収録されている5本の授業のうち、2本が小中連携を意識したものとなっています。中学校ではどのように指導するのかを知っておくことは、外国語活動の深い理解につながります。また、高校のDVDも、先生と生徒とが英語を使ってやり取りをしている場面が多く取り入れられています。高校の先生のように流暢な英語を話す必要はありませんが、どのような活動をするのか、ヒントを得ることができると思います。小学校の先生方にも大いに参考にしていただければと思います。
(2012年10月掲載)