一般財団法人英語教育協議会(ELEC)
文部科学省 協力
Archive

アーカイブ

世界に二つとないユニークな東京都英語村(TOKYO GLOBAL GATEWAY)学校教育との連携や相乗効果に配慮:東京都教育委員会

 

森 晶子(もり あきこ)

東京都教育庁 指導部 国際教育事業担当課長

 

[プロフィール]

2001年東京都入庁後、政策企画局、株式会社日本政策投資銀行、財務局などを経て2016年度より現職。TOKYO GLOBAL GATEWAYの開設、海外教育行政機関との提携、国際交流事業等を担当。ジョージタウン大学公共政策大学院修士課程修了。

 

2018年度からの新学習指導要領の段階的実施や大学入試への外部英語資格・検定試験の導入など、英語教育をとりまく環境が大きく変化しています。そんななか、東京都では、2018年に策定された「東京グローバル人材育成計画 ’20」において、「英語力」「豊かな国際感覚の醸成」「日本人としての自覚と誇り」の三つの柱にもとづく20の施策が盛り込まれました。その施策の一つ「英語での実践的な発話を体験」の実践場として2018年秋に東京都英語村がはじまりました。スタートして約半年、英語村がどのように利用され、実績や学校の授業と連携しているのか。またそこに課題はないのかなどについて、東京都教育庁指導部国際教育事業担当課長の森晶子氏に話を聞きました。

 

 

Q.「英語で学ぶ」体験型英語学習施設として、東京都英語村(Tokyo Global Gateway、以下TGG)が2018年9月にオープンしました。TGGにどのような役割を期待されているのかお聞かせください。

 

A. 子供たちが学校で習った英語を実践的に話す機会が十分ないため、英語を学ぶ意欲や必要性を感じきれていないのではないかという課題認識がありました。

 

TGGを活用することで、子どもたちがさまざまな活動を通じて、自分の英語が通じたとか、おもしろいと感じる成功体験をしてほしいと思います。必ずしも成功体験だけではないかもしれません。自分ではもっと話せると思っていたのに、いざ外国人を相手にすると思うように言えなかったというような、悔しい思いをするかもしれません。このような感覚を通じて、子供たちの学びに向かう力を刺激し、英語の学習意欲を高めるのが、TGGの最も大きな効果だと思います。

 

Q. TGGならではの特色とはなんでしょう。

 

A. 1点目は、リアルなグローバル空間を創出している点です。施設というハード面では、7,000㎡という広大な場所に、海外の日常シーンのほか、27種類に上る多様な非日常空間が創られています。ソフト面では、TGGには30数カ国から約250人に上る外国人スタッフが登録しており、平均70~100人程度が常時、施設内で活躍しています。

 

2点目は、多岐にわたるレベル別プログラムです。プログラムは「アトラクション・エリア」と「アクティブイマージョン・エリア」の2系統に分かれ、アトラクション・エリアではレストランや病院、飛行機の機内など、日常生活シーンに基づき、「ミッションカード」を使って会話に挑戦します。アクティブイマージョン・エリアでは、他教科や世界に目を向けるきっかけとなるようなテーマ、例えばプログラミングや日本文化、ダンス、ビジネス、SDGs(持続可能な開発目標)、海外の授業などに英語で挑戦することができます。プログラムの内容、素材、人材には、様々な提携先からの協力を得ています。例えば、東京都教育委員会とオーストラリアのクイーンズランド州教育省との教育に関する覚書に基づく連携関係を背景に、クイーンズランド州の現職の教員がTGGに滞在し、自国での授業を提供してくれるなど、日本では初めての取り組みもあります。

 

3点目は、学校教育との連携や相乗効果に配慮していることです。他の体験型英語学習施設とは異なり、教育行政が関与している施設ならではの特長だと思います。プログラムを作るにあたっては、立教大学の松本茂先生や上智大学の和泉伸一先生などに監修していただいていますが、学校の授業ではなかなか実現できない部分や、まだ十分に実現できていない部分に配慮して作っています。新しい学習指導要領でも求められている、「具体的な課題等を設定し、コミュニケーションを行う目的や場面、状況などに応じて、情報を整理しながら考えなどを形成し、これらを論理的に表現する」活動などに配慮しています。学校の授業でも、ロールプレイングなど、色々な工夫をされていると思いますが、リアルなセッティングで、外国人と、即興で、予定調和でない会話を行うこと、自分の要求を伝えて理解してもらわなければならないなど、ホンモノの状況で子供たちが英語を使うことの必然性、必要性を創出することは、学校では十分に実現できないことだと思います。

 

また、タスクベースの指導、生徒中心の活動、CLIL(Content and Language Integrated Learning:内容言語統合型学習)などに関心はあっても、実際にどのようにするのが良いか、模索しながら授業改善に取り組んでいらっしゃる先生も多いと思います。TGGでは、専門家や教育教材の実務者、学校現場、行政など、様々な属性の関係者が協議しながら、時間をかけて、このような要素を盛り込んだプログラムを用意しています。学校の授業にも参考にしていただけると思います。

 

Q. 東京都英語村の学校団体による利用の現状についてお聞かせください。

 

A. 小学生、中学生、高校生、いずれにも広く活用されています。利用の位置付けや狙いも、各校で工夫して利用されています。この辺りについては、2019年1月15日にTGGで開催した実践事例発表会で、発表校から色々な報告がありました。その中で紹介があった学校を例に挙げますと、都立六郷工科高等学校は、専門教育に強い学校ですが、ものづくりの専門性を生かして、アジアでグローバル・リーダーシップを取れる人材の育成を目指しています。同校では3年かけてのTGGの利用プランを検討しています。1年生の段階では、外国人と相対することに恐怖感や抵抗感がなく自己紹介ができるところから目標を設定し、最終的には生徒たちが専門分野でリードしていけるような英語力をつけていくために、3カ年の全体のプランニングをしています。1年に1回ずつ、在学中に合計3回TGGを利用して学習します。毎年度の目標の位置づけを明確にし、事前と事後のフォローアップもカリキュラムに取り入れることで、TGGを軸にした英語教育、人材育成に取り組まれています。

 

都立町田高等学校は多様な国際理解教育に力を入れている学校です。希望者に海外の姉妹校での語学研修を実施していますが、その事前学習としてTGGを利用されています。海外での実践に向けた練習としてTGGを活用することで、海外研修をより充実させる取り組みです。

 

このほか、TGGでは、特別支援学級の子供たちも、楽しく英語のコミュニケーションを体験しています。様々な子供たちに利用してもらいたいと思います。

 

Q. 東京都教育委員会ではTGGを授業の一環として利用できるように配慮しているとお聞きしました。具体的にはどのような位置づけになるのでしょうか。

 

A. 教育課程の中で活用する場合、大きく、英語の授業、総合的な学習の時間、学校行事(特別活動)のいずれかでカウントすることになろうかと思います。学校が、英語の授業として使えるよう、エージェントが個々の児童・生徒の活動状況をフィードバックすることにしています。また、教科横断的で課題解決型のシナリオにすることで、総合的な学習の時間にも使えるようにしています。更に、グループ活動を中心とし、スチューデント・アグリーメントという行動規範を設けることで、特別活動の考え方にも沿うようにしています。 TGGの特徴はガイドラインにまとめ、学校に配布しています。教育課程外で、希望者を募って利用するなども可能です。実際にTGGをどういう位置づけで利用するのかは、各学校の判断です。

 

Q. TGGの活動をそれぞれの学校ではどうつなげればよいでしょうか。

 

A. TGGの利用効果を高めるには、学校での取り組みが重要だと考えていますが、具体的に、どのような学校の授業とTGGとの接続方法が良いのかということについては、各校の実態に応じ、多様なやり方があると思います。学校が、自校に合ったやり方を考えられるように、様々な事例を提供することが重要です。先にお話したTGGの実践事例発表会は、そうした情報共有のための取り組みの一つです。参加した多くの学校が、具体的な他校の取り組み例を知ることは自校の参考になると回答しています。今後、こうした情報共有を広げていきたいと考えています。

 

Q. 教員にとってもTGGで学べる効果は期待できるのでしょうか?

 

A. 引率の先生方には、学校でTGGで子どもたちがどう活動しているか、TGGのエージェントのファシリテートの仕方やプログラムの構成などを見てもらい、その後の授業の参考にしてもらえればと思っています。

 

TGGのサービスは、子供たちにとって有意義なインパクトのある場というだけでなく、事後学習や学校における英語教育の改善に役立つと思います。先生達が、TGGで子供たちが活動する様子を横で見ていて、「ああ、これは自分の授業にも取り入れられるな」「自分だったらこうするな」と、次々とアイデアが沸き起こる施設にしたいです。

 

Q. 最後に、TGGに今後期待するものはなんでしょうか。

 

A. TGGは、日本における英語教育改革のハブになってほしいと思います。プログラムの内容は随時バージョンアップし、エージェントやスペシャリストたちも日々改善を重ねています。様々な協力機関からの提案も寄せられています。全国から、利用者や視察によって、多くの人々が集まっています。

 

常に新しい取り組みや議論が生まれ、新陳代謝を続ける、子供たちも、先生方も、いつ行っても新しい発見、新しい学びがある施設にしたいと思います。

 

そうして、TGGで提供するサービスが最終的に何を目指しているかというと、子供たちに不確実性の高い新しい時代を、より自由に、幸せに生き抜いていける、小さなきっかけを提供することです。子供たちには、「英語が苦手だから」「外国人と触れ合うのが苦手だから」という理由で、自分の可能性を狭めてほしくない。英語が使えれば、世界に自在にアクセスでき、人生の選択肢が増えるのだ、可能性が広がるのだということに気付いてほしい。世界では、英語がビジネスの共通言語になっていますし、コミュニケーション能力や伝え方の巧拙によって、同じ内容を言う場合でも、受け手の反応等、結果が大きく異なります。英語に慣れ親しむ場、コミュニケーション能力を鍛える環境を提供することで、子供たちの、充実した人生に向けた一助になればと願っています。

 

今は、利用する子供たちの笑顔が溢れ、子供たちにも先生たちにも満足度が高く、全国から関心を寄せて頂ける施設として滑り出すことができました。益々多くの子供たちに利用してもらいたいです。

 

全国の学校に利用して頂けるので、修学旅行などで是非活用して頂きたいです。

 

 

(2019年4月掲載)

CONTACTえいごネットに関するお問い合わせ